400ドルを2億ドルにした伝説のトレーダー集団「タートルズ」の成功と失敗の物語
- 2025-01-08
400ドルを2億ドルにした伝説のトレーダー集団「タートルズ」の成功と失敗の物語
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実はこれは、1980年代のシカゴで実際に起こった出来事です。この物語の主人公は、伝説のトレーダー集団「タートルズ」とその生みの親、リチャード・デニス氏。彼らは、トレード経験のない素人集団を、わずか数週間の訓練で億万長者へと育て上げたのです。
この記事では、タートルズの誕生から、その育成の秘密、使われたトレード手法、そして解散後の彼らの歩みまで、伝説のトレーダー集団の物語を徹底的に解説します。
リチャード・デニス氏:伝説のトレーダーの誕生
タートルズの生みの親であるリチャード・デニス氏は、アメリカのシカゴに生まれました。裕福な家庭に育ったわけでもなく、特別な才能を持っていたわけでもありませんでした。10代の頃は内向的な性格で、厚い眼鏡をかけ、ポリエステルのズボンを履いていたなど、華やかな雰囲気とは程遠い人物だったと言われています。
彼の最初の投資経験は、高校時代に初めて買った株式。残念ながらその会社は倒産してしまいましたが、その後、シカゴマーカンタイル取引所でのアルバイト経験が、彼をトレーダーへと導く転機となりました。
数百人のトレーダーがひしめき合う取引所で、我先にと売買を成立させようとする活気あふれる光景を目の当たりにしたデニス氏は、自分も取引所に出てみたいと考えました。しかし、当時のマーカンタイル取引所では、21歳にならないと売買ができないため、なんと代わりに両親に売買をさせたのです!シカゴ証券取引所で働いていた両親を説得し、取引所に引き込み、手振りの合図を送りながら、自分の思い描く取引を両親に代行させたのです。
このように10代から投資の才能を開花させたデニス氏でしたが、大学卒業後は哲学に没頭します。イギリスの哲学者であるデイヴィッド・ヒュームやジョン・ロックといった経験主義の哲学者から影響を受け、「とにかく証明してみせろ」という考え方が気に入ったと語っています。
私は哲学のこと全く分かりませんけれども、経験主義というのは、人間は生まれた時は白紙の状態であり、経験によって様々な知識を獲得していくというふうに考えるようです。このあたりが実は後半で説明するデニス氏がなぜタートルズの挑戦を始めたのかというところに関しているんじゃないかなというふうに思います。
大学院修了後、デニス氏はシカゴに戻り、トレーダーとして独立することを決意します。両親から資金を借り、一部は自分の生命保険を担保にして、ミッドアメリカン商品取引所の会員権を買います。さらに、弟がピザ屋で稼いだ100ドルを借り、トレードを開始します。
タートルズ実験:素人トレーダー養成プロジェクトの開始
既に金融界で名声を博していたリチャード・デニス氏が、タートルズ実験を開始したのは1983年のことでした。きっかけは、デニス氏と彼の友人であるビル・エックハート氏が、優れたトレーダーは育成可能かどうかを議論した際に、両者の意見が真っ向から対立したことでした。
デニス氏は、既にトレードで莫大な富を築いていましたが、自身のトレード能力は天賦の才ではないと信じていました。相場における正しい戦略とルール、正しい行動は学ぶことができるものだと考えていたのです。
一方のエックハート氏は、トレードの能力は天賦の才、つまり生まれながらに身についている人とそうでない人がいるという考え方を固く信じていました。
長年の友人である両者ですが、トレード能力や教育という点に関しては、意見が食い違っていたようです。
「だったら実際に人を育てて訓練してどうなるかを実験してみよう」ということで、2人はすぐに合意。トレーダー育成プロジェクトを始めることになったのです。
タートルズの募集:1000人以上の応募者
1983年から1984年にかけて、デニス氏とエックハート氏はウォールストリートジャーナルを始めとする様々な新聞に広告を出しました。
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この広告を出した結果、なんと1000人もの応募があったと言われています。
ウォール街で成功を収めていたデニス氏が直接トレードを指導する、一生に一度巡り合うかどうかのチャンスです。しかも、利益が出た場合はその一部をもらえるという太鼓持ち。
応募してきた人たちの経歴は実に多様でした。営業マン、経理員、電話受付、バーテンダー、ボードゲームのデザイナー、料理師、教師…中にはMBAを持つようなエリートも含まれていたようです。
タートルズの選抜とトレーニング:たった2週間の集中訓練
様々なバックグラウンドを持った人たちは、筆記試験と面接を経てタートルとして採用されました。ほとんどはトレード経験がありませんでした。当時、トレード業界のほとんどが男性だった中、女性も採用されています。
タートルズの実験で具体的に何人が採用されたのか、正確な数は知られていませんが、大体20数名が採用され、タートルとしての訓練を受けたと言われています。
正式に採用されたタートルたちは、デニス氏とエックハート氏から、債券や通貨を始め、原油やトウモロコシなどのコモディティ市場とあらゆる市場で取引するために必要な知識に関するトレーニングを受けました。
このトレーニング、どれくらいの期間行われたと思いますか?数ヶ月?それとも数年?
実は、たったの2週間だったそうです!
リスク管理、注文の実行方法、資金管理、そして取引するための具体的な手法についても学びます。
タートルズの取引環境とルール:徹底した規律と自己反省
トレーニングを終えたタートルたちは、一人100万ドルの軍資金を割り当てられます。(1ドル200円換算で2億円以上!)
実質取引経験のない素人トレーダーに、莫大な資金が割り当てられたことになります。
タートルたちは、この運用資金でトレードを行い、利益が上がればその15%がタートル本人へ、残りの85%はデニス氏へ渡るという決まりでした。
2週間前にトレードをしたことのない素人集団がどのようにトレードを行っていたのか、デニス氏とエックハート氏が横につきっきりで指導したのかなど、その様子も気になりますよね。
タートルズのトレードスタイル:厳格なルールと徹底した記録
トレーニングが終わると、タートルたちはトレーディングルームに案内され、トレードを始めることになります。
タートルたちのトレーディングルームは非常に簡素なものでした。広々としたオープンな空間、シンプルなスチール製の机と椅子、一つの本棚。テレビやコーヒーメーカーなどの余計な設備は排除。中には卓球台が導入され、ストレス解消と交流の場として機能したようです。
トレーディングルームのあるオフィスに来る時の服装に関しても、特別な規定はなく、ジーンズにTシャツというカジュアルな格好が一般的でした。
この自由な雰囲気は、タートルたちが快適に長時間集中できる環境を作り出しました。
デニス氏から資金を受け取ったタートルたちは、学んだ取引ルールを厳密に適用し、トレードを開始します。タートルたちの取引は、規律と一貫性を重視する厳格な方針に基づいて行われました。
彼らに与えられた最も重要な指示は、取引ルール以上に優先されるものでした。それが、継続的な練習と技能の向上を行うということです。
タートルズの日常的なトレード環境の特徴
- 自主性と責任: 集中的な訓練が終了すると、タートルたちはデニス氏やエックハート氏がトレーディングルームにいない状態でも取引を行いました。常に横につきっきりで指導していたわけではなかったのです。
私が最初にこの話を聞いた時は、徹底的にデニスさんとビルさんがですね、家庭教師みたいに、つきっきりで教えていくのかななんて想像していたんですけども、そうではなかったみたいです。ただ取引のルールは絶対守るように指導しながらも、こうやって自立的に取引させるアプローチは、タートルたちの判断力と自信を育てる上で重要な役割を果たしたとも考えられます。
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定期的なフィードバック: タートルたちとデニス氏・エックハート氏との面会は週に一度、金曜日の午後2時間に渡って行われました。この短い時間で、1週間の取引状況や質問への回答が行われました。この定期的なミーティングは、タートルたちが方向性を失わずにトレードを続けるのに役立ちました。
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厳格な監視と説明責任: デニス氏とエックハート氏は、タートルたちの毎日の取引明細書を綿密にチェックし、ルールからの逸脱が見られた場合は電話で説明を求めました。この厳格な監視システムは、タートルたちがルールを遵守し続けるよう促しました。
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記録と自己反省: タートルたちは全ての取引を記録し、各取引の理由を文書化することが義務付けられていました。この行動は、タートルたちの自己分析と学習プロセスを促進することになります。
これっていうのはトレードノートをつけることと同じですよね。特になぜその取引をしたのか理由を書いておくことは必須だったみたいで、こうしたことがトレーニングで教えてもらったことを定着させ、デニス氏とビル氏の手法に対して深い理解を得ることに繋がったんじゃないかなと思います。
タートルズの驚異的な成功:年間平均リターン70~80%超え
こうして始まったタートルズの実験ですが、すぐに結果を出し始めます。なんと4年間で、年率100%を超えるリターンを稼ぎ出すトレーダーが何人も現れたのです。
これは、投資やトレードを経験したことがある方であれば理解していただけると思います。
1989年のウォールストリートジャーナルの記事には、1985年から1988年までの4年間のタートルズの運用成績が載っています。
右から2列目をみると、1985年から88年にかけての年間リターンをレンジで示したものですが、稼いでいるメンバーは年間100%から300%のリターンを記録していることが分かります。そして、一番左の数字、これが年間の平均リターンですが、これを見ても年率70%~80%超えは当たり前といった形ですよね。同じ期間のS&P500の平均リターンが19%出ているので、タートルズの パフォーマンスがどれくらい凄いことなのか分かると思います。
年間リターンをレンジで見ても、S&P500が5.1~31.6%であるのに対して、その差は歴然です。
実験が始まったのは1980年代でしたが、それから20年以上が経過した2007年の時点で、デニス氏の教え子であるジェリー・パーカー氏、ポール・レイバー氏、ビル・エックハート氏の3人が運用している資金はそれぞれ30億ドルを超えています。そして驚くべきことと言うのは、彼らの運用手法というのがタートル時代からほとんど変わっていないということです。
タートルズの成功と失敗:成功の要因は「手法」だけではない
デニス氏の元で同じ手法を学んだにも関わらず、人によって運用成績にばらつきがあることに疑問を持った方もいるかと思います。これについては、後日のインタビューで何人かのタートルが語ったところによると、教えられたことを実践できなかったり、きちんと理解できなかった生徒がいたとのことでした。
またデニス氏は高年次のインタビューで「タートルに誰を選んでもさほどの違いは無かったであろう。タートルズの実験が終わってからもトレードで成功できたものは実力があったからであって、生まれ持った能力に差はなかった」と言っています。
しっかりと設計されたトレードシステムがあれば、それを実行するのに生まれつきの優秀な知能は必要ない。大切なのはアイデアではなく、それを実行する能力であり、優れたトレードのシステム、手法があれば、物好き大統領ですらトレーダーになれるだろうと。
両サイドの意見を聞くと、確かに利益を上げていくための手法は大切ですが、学ぶ側にも素直さや実行に移すことの重要性という点が挙げられると思います。
タートルズが稼いだ金額:200億円規模の驚異的な利益
タートルズが一体どれだけの金額を稼ぎ出したのか気になる方も多いかと思います。
後日にリチャード・デニス氏がタートルズについて語ったインタビューでは、タートルズ全体として1億5000万ドルを稼いだという発言がされています。当時のレートで換算しても200億円規模なので、相当な額を稼ぎ出したまさに伝説のトレーダー集団と言えるでしょう。
タートルズの解散後:成功と失敗の分岐点
順風満帆に見えたタートルズの実験ですが、1988年、実験開始から約5年後、デニス氏は突如としてタートルズの実験終了を宣言しました。
この突然の終了理由は公には明かされていませんでしたが、当時のデニス氏の運用成績が全てを物語っています。デニス氏は当時2つのファンドを運用していました。しかし1988年4月に彼は運用資金の55%という巨額の損失を被ることになります。これらのファンドは巨額の損失を出し、最終的に清算せざるを得なくなりました。
この出来事を機に、デニス氏はトレードの世界から引退することを決意したのです。
興味深いことに、デニス氏の大きな損失に関しては、彼がタートルたちに教えたトレンドフォローの手法に従って行われたトレードではなかったと言われています。しかし、デニス氏が実際にどのようなルールでトレードを行っていたのかについては、本人以外には正確に知るすべがありません。
この謎めいた状況は、トレーディングの世界の複雑さと、時には最も経験豊富なトレーダーでさえ予期せぬ結果に直面する可能性があることを物語っています。
ジェリー・パーカー氏の成功:技術を超えた「起業家精神」
デニス氏の突然の引退は、タートルたちにとって大きな転換点となりました。彼らは指導者の存在なしで、自らの道を切り開いていかねばならなくなりました。
実はこの出来事が、トレードの世界における適応力と自立の重要性を浮き彫りにすることになります。
タートルズ解散後のメンバーのその後
タートルズの解散後、多くのメンバーは独自の道を歩み始めました。その進路は様々です。自身のファンドを立ち上げる者、個人トレーダーとして独立する者、さらにはトレードから完全に引退する者もいました。
デニス氏の元で2億ドルまで資金を増やす手法を学んだタートルたちの将来は、一見すると輝かしいものに見えます。しかし実際には、全員が華々しいトレーダー人生とはならず、異なる道を辿ることになったのです。
トレーダーやファンドマネージャーとして成功を収める者が現れる一方で、失敗した者もいました。タートルたちは皆一様に同じトレーニングを受け、同じ手法を学び、同じ資金管理、リスク管理の考え方を学び、同じトレード環境でトレードし続けていたにも関わらずです。
この点から、トレードで長期的な成功を収めるには、単なる取引手法やルールの習得以上のものが必要であることを如実に示しています。技術的なスキルだけでなく、個人の資質や環境への適応力も重要な要素となったのです。
ジェリー・パーカー氏の成功例
どういうことでしょうか?一つエピソードを紹介したいと思います。タートルズの解散後、独立してトレーダーとなったメンバーの中で最も際立った成功を収めたのが、ジェリー・パーカー氏です。
彼の成功は群を抜いており、2006年の時点で推定7億7000万ドルもの資産を保有していたと言われています。この驚異的な成功は、パーカー氏の卓越した能力と独自の戦略を物語っています。
パーカ氏の成功の理由
パーカー氏が大成功を収めた理由はいくつかあります。まず、彼を含む数名のタートルは、デニス氏から学んだルールに忠実にトレードを続けました。しかし、同じようにデニス氏の元でトレードを学び、独立したタートルの中に、大成功を収めた者と失敗した者がいました。
この差を生み出したのは、単にトレードのスキルだけではなかったようです。タートルズの実験を分析した専門家たちによれば、この違いの根源にあるのは、トレードという事業を起こすことへの理解力と実行力の差にあったのではないかと分析しています。
つまり彼らは皆、トレードの取引手法やルールを身につけていましたが、そこに起業家精神が加わらなければ、ビジネスとしての継続的な成功は難しかったというのです。
ベラー大学のナンシー・アップトン教授とドン・セクストン教授による起業家精神の研究によると、パーカー氏を始めとする成功した起業家には、共通して特定の性質が見られると言います。
- 一般的な社会規範にとらわれない
- 挑戦として捉えている。他人のことを気にしない。
- スカイダイバーのように、身体的な危険をあまり心配しない。
- リスクテイカーである。リスクを負って挑戦することを好む。
- 躊躇なく立ち回る。人を説得することに長けている。
- 自立している。
- 変化を追求する。これまでにないアプローチを好む。この点で他の99%の人と異なる。
- 精力的である。他人より長時間働くことができる意欲と能力が備わっている。
- 自己充足的である。同調や安心をさほど必要としない。
これらの資質は、トレードの技術的なスキルという側面を超えた、ビジネスの成功に不可欠な要素を示しています。
パーカー氏の言葉
パーカー氏は後日のインタビューでこのように語っています。
タートルズ時代に身に着けたものの中で最も重要なのは自信。テクニカルに基づいてトレードを続けようと思ったのは、デニスのシステムに従って売買して大成功を収めたという経験があったから。
またパーカー氏は、タートルとしてトレードをしていた頃から常に、「やがて自分の収入がデニスと匹敵するようになる」ということを確信していたそうです。
このあたりの考え方って何かもう凄いですよね。
一方、デニス氏が1986年に8000万ドルを稼ぎ出すのを間近で見ていたタートルの中には、「自分には到底無理、タートルに選ばれただけでも幸運だった」というメンバーもいたようです。
こうした発言からも読み取れるように、パーカー氏には、絶対にトレードという事業で成功するという情熱と自信と企みが備わっていたと言えます。
タートルズの教訓:成功への道は技術だけではない
タートルズが解散し、師であるデニス氏の元を離れた後、彼らに問われていたのは、「自分自身で成功するだけの能力と企みがあるか」ということでした。そしてそれらはデニス氏が決して教えることができなかったものであり、その答えは各々が自分自身の中に見出さなければならなかったのです。
パーカー氏は、成功する起業家に共通する9つの資質を身につけることができました。しかし他のタートルの中には、これらの資質を獲得できなかったものや、そもそもそれを望まなかった者もいました。
特筆すべきは、パーカー氏がタートルズとしての修行時代から、やがて自分の収入がデニスと匹敵するようになることを確信していたことです。この強い自信と企みと野心が、彼の成功の礎になったと言えるのではないでしょうか。
パーカー氏を始めとする成功したタートルの思考は、他のタートルとは明らかに異なっていました。
手法を掴めれば誰でもトレードができるようになる。利益を生むこともできる。でもそれを継続できるか否かは、結局のところその手法を運用する人間の姿勢にかかわってくる。
最後に、タートルズで最も成功したトレーダー、ジェリー・パーカー氏の言葉を贈りたいと思います。
(パーカー氏の言葉は音声データに含まれていないため、追記できません。)
この記事が、あなたの投資やトレードに対する考え方に新たな視点を与えてくれることを願っています。