SNS精子提供:増加する利用と隠されたリスク、そして2021年の訴訟事例
- 2025-02-15

SNS精子提供の現状と深刻化する問題点
近年、SNS を通じた精子提供が急増しており、新たな社会問題として注目を集めています。本記事では、病院での精子提供の現状とSNS精子提供の増加背景、そしてそのリスクについて詳しく解説します。さらに、2021年に起きた訴訟事例を交えながら、この問題の深刻さを浮き彫りにします。
病院での精子提供:歴史と現状
日本の精子提供の歴史は古く、1949年に慶應義塾大学病院が不妊治療の一環として第三者からの精子を用いた人工授精を行い、出産に至ったのが最初です。75年以上前のことですが、当時は男性が不妊症の夫婦に限定されていました。
その後、性同一性障害手術を受けて女性から男性になったトランスジェンダー(FTM)の夫婦も、婚姻関係があれば精子提供を受けられるようになりました。現在、日本で精子提供によって生まれた子どもの数は1万人から2万人と推定されています。
しかし、病院での精子提供は、法的に婚姻関係にある夫婦に限定されています。そのため、同性愛カップルの精子提供は認められていません。また、近年増加している選択的シングルマザーも対象外です。
さらに、2018年には慶應義塾大学病院が、精子提供者の不足を理由に新規患者受け入れを停止しました。これは精子提供における深刻な問題点を示唆しています。
SNS精子提供の増加背景:病院の精子提供の限界とニーズの増加
病院での精子提供に制限がある中、SNSを通じた精子提供が台頭してきた背景には、以下の要因が考えられます。
- 病院での精子提供の制限: 前述の通り、病院では婚姻関係にある異性愛カップルのみに精子提供が限定されており、多くのニーズを満たせていません。
- 匿名性の確保: SNSでは、匿名で精子提供を行うことができるため、プライバシーを重視する人にとって魅力的な選択肢となっています。
- 簡便性: 病院での手続きに比べて、SNSでの精子提供は手続きが簡便です。
- コストの低さ: 多くの場合、SNSでの精子提供は無料または低価格で行われます。病院での精子提供は高額な費用がかかるため、経済的な負担を軽減できる点は大きな魅力です。
- ドナーの選択の幅広さ: SNSでは、年齢、身長、学歴などの情報が公開されている場合もあり、依頼者はより自分の理想に近いドナーを選択できる可能性があります。
SNS精子提供のリスク:医学的リスクと法的・倫理的なリスク
SNSでの精子提供は手軽で安価な反面、深刻なリスクを伴います。医学的なリスクと法的・倫理的なリスクを分けて解説します。
医学的リスク
慶應義塾大学病院で精子提供による不妊治療に携わってきた教授によると、医学的リスクは以下の3点が挙げられます。
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感染症のリスク: 性感染症、肝炎、HIVといったウイルス性疾患の感染リスクがあります。慶應義塾大学病院では、凍結した精子を用い、半年後に感染症がないことを確認してから使用することでこのリスクを低減させていました。
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遺伝性疾患のリスク: 提供者の遺伝子に疾患が潜んでいる場合、その遺伝的な病気が子どもに遺伝する可能性があります。遺伝子検査は通常行われていません。
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近親婚のリスク: 同じドナーの精子から生まれた子ども同士が結婚する可能性(近親婚)があります。これは、遺伝性疾患のリスクを飛躍的に増加させます。
特に、SNS精子提供では、これらのリスクを管理する仕組みが整っておらず、非常に危険です。
法的・倫理的リスク
女性側(依頼者)のリスク
- 性的トラブルや性的被害: 精子提供者側の動機や倫理観が不明なため、性的トラブルや性的被害に巻き込まれる可能性があります。
- 養育への介入: 精子提供者から養育に介入される可能性があります。SNSでは、個人情報が提供者側に漏洩するリスクがあり、その情報を利用して、女性の職場や実家などを突き止められる可能性も存在します。場合によっては金銭的な援助を提案してくるドナーもいるようです。
男性側(提供者)のリスク
- 親子関係の認知請求: 妊娠した女性が婚姻関係にない場合、生まれた子供と法的親子関係が成立し、男性は法的父親となり、養育費の請求を受ける可能性があります。
子供のリスク
- 出自を知る権利の侵害: 日本では、出自を知る権利に関する法律がないため、自分の遺伝的な父親を知ることができない可能性があります。これは、子供のアイデンティティ形成に大きな影響を与える可能性があります。
- 近親婚のリスク: 上記の通り、同じドナーの子ども同士が結婚するリスクがあります。
2021年の訴訟事例:SNS精子提供の闇を暴く
2021年に、SNS上で精子提供を受けた女性Aさんが、提供者B氏を相手取り、損害賠償請求訴訟を起こしました。
Aさんは、夫との間に子供が一人いましたが、第二子を望み、不妊治療を受けていました。しかし、妊娠に至らなかったため、Twitter上で精子提供を探し始めました。
B氏は、「東大卒、IQ130以上」とプロフィールに記載し、身長や血液型なども提示していました。Aさんは、B氏のプロフィールに惹かれ、精子提供を受けました。
しかし、妊娠後、B氏が日本人ではなく中国人であり、学歴や独身なども嘘だったことが判明しました。Aさんは、B氏を相手取り、約3億3200万円の損害賠償を請求しました。
訴訟事例から考える問題点
この訴訟事例は、SNS精子提供の危険性を浮き彫りにしました。
- ドナーの情報の虚偽性: SNS上の情報は必ずしも真実とは限りません。虚偽の情報に基づいて精子提供を受け、大きな損害を被る可能性があります。
- 法的保護の不足: 日本には、SNS精子提供に関する法的枠組みが整っていないため、トラブルが発生した場合、法的保護が受けにくい可能性があります。
- 子供の権利: 出自を知る権利、近親婚のリスク、養育への介入といった、子供の権利が侵害される可能性があります。
- 責任の所在: AさんとB氏、双方が責任を問われる可能性があります。
まとめ:慎重な判断を
SNS精子提供は、手軽で安価な手段として注目を集めていますが、医学的・法的・倫理的なリスクが非常に高いため、安易な利用は避けるべきです。精子提供を検討する女性、提供を検討する男性は、これらのリスクを十分に理解し、慎重な判断を行う必要があります。特に、生まれてくる子供には何の罪もないことを忘れてはいけません。
最後に
今回取り上げたテーマは非常に重く、多くの人々が直面する可能性のある深刻な問題です。精子提供を依頼する女性、提供する男性は、生涯にわたる責任をしっかりと自覚し、慎重に選択することが重要です。 そして、何よりも、生まれてくる子供たちが幸せな人生を送れるよう、社会全体で考え、議論していく必要があります。