スーパーマリオ64におけるBLJ(バグ利用高速移動)の驚愕の歴史:700万回再生のTAS動画誕生秘話

スーパーマリオ64におけるBLJ(バグ利用高速移動)の驚愕の歴史:700万回再生のTAS動画誕生秘話

スーパーマリオ64におけるBLJ(バグ利用高速移動)の驚愕の歴史:700万回再生のTAS動画誕生秘話

はじめに:ケツワープから始まった伝説

スーパーマリオ64。あの名作に潜む、信じられないほどの高速移動方法をご存知でしょうか? それが「ケツワープ」です。正式名称は「バックワールドラングジャンプ(BLJ)」と呼ばれ、壁に向かって後ろにバク宙を連続して行うことで、マリオに加速が蓄積され、最終的にはとんでもない速度で飛び続けることができるバグ技です。

この記事では、このBLJの発見から、現在に至るまでの歴史を、発見された裏技やテクニック、そしてそれを用いたTAS(ツールアシストスピードラン)動画の進化を通して、詳しく解説していきます。 単なるバグ技の解説にとどまらず、数々のプレイヤーたちの創意工夫と情熱、そしてコミュニティの力によって生み出された、スーパーマリオ64の世界を深く掘り下げていきましょう。

スーパーマリオ64とケツワープの黎明期

スーパーマリオ64は1996年6月23日に発売された任天堂64用ソフトで、スーパーマリオシリーズ初の3Dアクションゲームとして登場しました。ゲームクリアには最低70個のスターが必要とされ、スターの数が足りない場合、ラストダンジョンへ行くまでの階段が無限に続くという仕様がありました。

発売から数日後、この無限階段を突破する裏技が、当時の子どもたちの間で話題になります。方法はいたってシンプル。階段に向かって後ろにバク宙をするだけでした。このケツワープ、いやBLJは瞬く間に広まり、1996年11月発売のファミ通64 Vol.9や、12月24日発売の『スーパーマリオ64 完全クリアガイド』にも掲載されるほど有名になりました。しかし、翌年に発売された拡張パック対応版では、このBLJは修正されてしまいます。

70個のスターは本当に必要? そしてゲラニ氏による衝撃の投稿

時は流れ、2000年。スペイン語版クラブニンテンドー11月号に、「スーパーマリオ64は70個のスターを集めなくてもクリアできる」という記事が掲載されます。しかし、発売から4年も経っていたため、この情報はあまり広まりませんでした。

転機が訪れたのは2003年3月16日。GameFAQsのマリオ64フォーラムに、ゲラニ氏がある書き込みを投稿します。内容は「友人が70個のスターを持っていない状態でもゲームをクリアする方法を教えてくれた」というものでした。多くの人はゲラニ氏の言葉を信じませんでしたが、彼は翌日、BLJを利用して無限階段を突破する動画を投稿。クラブニンテンドーの記事も参照したと主張します。この動画を見た人々は衝撃を受け、BLJに関する研究が始まりました。

この時点では、地下へのクッパまでは正規の手段で倒す必要があったため、最短クリアに必要なスター数は31個でした。

ドムダンカ氏とミップ:最短クリアへの新たな地平

2004年5月9日、GameFAQsのユーザーであるドムダンカ氏が、スターを16個だけでクリアしたと投稿します。その方法は、15個のスターを集めた後に現れるウサギのミップを利用し、地下の30個の扉を抜けるというもの。ミップの発見により、最短クリアに必要なスター数は31個から16個に減少し、マリオ64 RTA(リアルタイムアタック)がますます盛んになります。

Speed Demos Archiveには多くのRTA動画が投稿され、TASVideosには多くの熟練プレイヤーが集まり、新しい戦略や速度の追求のための議論が活発に行われるようになりました。

TAS動画の進化とLBJ、SBJの発見

2005年11月21日、スペッツァファース氏制作の16個スターTASが公開されます。TASとはツールアシストスピードランの略で、ゲームの動作を解析し、人間には不可能なプレイをすることを指します。

プレイヤーたちはBLJが階段だけでなく、急な坂やエレベーター、低い天井でも機能することを共有し、TAS製作者やRTA走者たちは様々な場所を探求しました。そして、2006年10月14日、ミスターロバートG氏が後ろのロビーに3つのグリッチがあることを発見します。このロビーグリッチは一見何もないように見えるグリッチですが、柱の裏にはBLJができる低い天井が存在し、これを利用して最初のクッパに到達できることが判明しました。この技はLBJ(Low BLJ)と命名され、2006年11月23日に公開されたTASでも使用されるようになりました。

スターを持っていない状態でも地下に行けるようになったことで、「スターを1個、もしくは0個でクリアできるのではないか?」という議論が始まります。しかし、地下に行っても問題があります。それは、30個の扉をどう突破するかということです。本来なら15個のスターから出現するミップを利用して壁抜けをしていましたが、スターを何も持っていない状態ではミップは存在しません。

そして0個スタークリアへ:サイドBLJとパラレルユニバース

プレイヤーたちは頭を悩ませ、行き詰まりを感じていました。しかし、TAS製作者のAK氏は何もしないという状態に達したとき、30個の扉を突破する全く新しいBLJを発見します。それがサイドBLJ(SBJ)です。

LBJ、SBJの発見により、2007年8月1日、AK氏とSwordlessLink氏が共同制作した1個スターTASが公開されます。残念ながら、ウォーターランドをスキップする方法は見つからず、0個スタークリアは難しいと言われていました。

しかし、12月7日、AK氏とSwordlessLink氏は突如として0個スターTASを公開します。1個スターTAS公開後、彼らはSBJについてさらに研究し、ウォーターランドのステージ判定をスキップする方法を見つけたのです。このTASは全世界から驚愕されるほどのTASとなり、現在では700万回以上再生されるTASとなりました。

更なる進化と挑戦:RTAにおけるBLJの利用

2009年6月13日時点では、Silent Slayer氏、名前がない氏、ビス氏が人力でSBJを成功させるなど、TASだけでなくRTAでもBLJが用いられるようになっていきました。

スターを何も持っていない状態でもゲームがクリアできるようになり、「これ以上の短縮は無理だろう」と思われていました。理由は簡単で、ラストボスに到達するには2つのクッパステージから2つの鍵を集める必要があるためです。鍵がかかった扉はロードの役割を果たしており、これらの扉をスキップすることは不可能と考えられていました。

鍵無し地下への到達:スロープBLJとポーズバファBLJ

しかし、2015年7月4日、テーラーケニー氏が鍵を持っていない状態でも地下に行く方法を発見します。

まず、スロープBLJと呼ばれるテクニックで後ろの上にある羽根帽子を入手します。帽子を入手したら、ポーズバファBLJと呼ばれるテクニックを使って超高速で空を飛びます。マリオが超高速で移動しているため、本来は入れないはずの網の中に入り込んでしまいます。ステージ内ではエレベーターBLJを使用し、わざとステージ範囲外に飛ばされ、水中から出るとマリオが消えます。実はマリオは水中では直前の速度を維持した状態となっており、水中を離れると「パラレルユニバース」と呼ばれるマップの外のマップに移動している状態になります。そして、パラレルユニバースにいるマリオをドア前の座標に合わせ、元のマップに戻る直前に扉を開けることができるのです。しかし、このやり方では羽根帽子を出すために20個のスターが必要となり、最短クリアではなくなってしまいます。

ワンキーTASとBLJの現在

その後、テーラーケニー氏は他のTAS製作者と協力し、2016年9月29日、ワンキーTASを公開します。このTASでは、Silent Slayer氏とSonic Packer氏が発見した湖の奥でもBLJができる場所が採用され、羽根帽子がなくても裏の透明スイッチに行けるようになりました。

70枚RTAと120枚RTAにおけるBLJの扱い

これまでBLJを用いた最短クリアへの挑戦の歴史を辿ってきましたが、今度は70枚RTAと120枚RTAにおけるBLJの扱いについて見ていきましょう。

まず、70枚RTAでは、BLJの使用が禁止されています。あらゆる方法によるスタードア要件の回避も禁止です。よって、70枚RTAは正規の方法でゲームをクリアすることを目指したカテゴリーです。

一方、120枚RTAには一切の制限がありません。BLJの使用が認められており、現在ではBLJを使ったルートが採用されています。

2011年後半からは、闇に溶ける洞窟のエレベーターBLJが採用され、100枚コインを集めるルートとして最も速く、現在でも使われています。

2015年後半から120枚RTAでもLBJが使われるようになり、従来はボム兵の戦場、バッタキングの砦、海賊の入り江、闇の世界のクッパ、ボム兵の戦場の残りのスター回収というルートでしたが、闇の世界のクッパ、バッタキングの砦、海賊の入り江、ボム兵の戦場というルートに変更されました。

2016年後半からは闇に溶ける洞窟で新たなエレベーターBLJが採用されました。これは本来なら「ケムリメートル」と呼ばれる場所を通らないと取れないスターを、エレベーターBLJで速度を溜めて壁を無理やり突破するという高度なテクニックです。日本では「無茶穴」と呼ばれており、一見簡単そうに見えますが、非常に難しい技です。

まとめ:終わらない探求

この記事では、ケツワープ(BLJ)の歴史を、その発見から現在に至るまでを辿り、数々のプレイヤーたちの努力と創意工夫が、スーパーマリオ64というゲームの世界をどのように拡張していったのかを紹介しました。たった一つのバグ技が、長年の研究によって4分ちょっとでゲームをクリアできるレベルにまで進化したのです。

しかし、研究は現在でも続けられており、新しい発見があるかもしれません。私たちが見たことのない世界をみれる日が近い将来に来るかも…。

ご視聴ありがとうございました!