前立腺がん検診:受けるべき?メリット・デメリットを徹底解説
- 2024-12-24
前立腺がん検診:受けるべき?メリット・デメリットを徹底解説
はじめに:前立腺がん検診の現状と疑問
皆さんは「前立腺がん検診」をご存知でしょうか? PSA(前立腺特異抗原)という前立腺に特有のタンパク質を血液検査で測定し、前立腺がんの早期発見を目的とする検診です。日本では人間ドックの一環として広く行われています。しかし、アメリカ泌尿器科学会やアメリカ予防医学専門委員会は、無症状の人への無闇な検査は推奨していません。
この食い違いはどこから来るのでしょうか? そして、本当に前立腺がん検診は受けるべきなのでしょうか? この記事では、前立腺がん検診のメリットとデメリットを徹底的に解説し、読者の皆さんがご自身にとって最善の判断ができるようサポートします。
前立腺がん検診:70代男性のケーススタディ
筆者の外来に70代男性が来院しました。勧められたため深く考えずに前立腺がん検診を受け、ごくごく早期の前立腺がんを発見されました。しかし、腫瘍の大きさ、年齢、進行度を考慮し、「まずは経過観察しましょう」との診断でした。
患者さんは不安に押しつぶされそうでした。「がんと言われたのに、本当に何もして大丈夫なのでしょうか?転移する可能性はないのでしょうか?」と訴えられました。
前立腺がんの特性:早期発見の重要性と課題
実は、前立腺がんの多くは、ステージ3までであれば5年生存率が100%です。転移(骨や肺への転移)してステージ4になると、5年生存率は60%に低下します。もちろん進行の早い例外もありますが、多くの前立腺がんは予後が良いのが特徴です。
しかし、上記のようなケースのように、早期発見されたにも関わらず、経過観察となるケースも少なくありません。これを専門用語で「過剰診断」と言います。早期発見はメリットがある一方で、治療による死亡率低下を示すデータは無いのです。
前立腺がん検診:受けるべき人の条件
では、一体誰が前立腺がん検診を受けるべきなのでしょうか?
絶対受けた方が良いのは、症状が出てきた時です。
前立腺がんが進行すると、以下の3つの症状が現れることが多いです。
- 排尿障害: 尿が出にくい、少量ずつしか出ない、尿の勢いが弱いなど。
- 頻尿: 最近トイレが近くなったなどの症状。
- 残尿感・尿漏れ: 尿が出きった感じがしない、尿意を感じていないのに尿が漏れてしまうなど。
これらの症状がある場合は、前立腺がんの初期症状の可能性があります。
症状が出る理由:
- 排尿障害・頻尿: 前立腺にがんが発生すると、尿道が狭くなり、尿が流れにくくなります。また、膀胱が過敏になり、頻尿が起こることもあります。 前立腺の下側にがんができた場合は、膀胱を圧迫しないため、頻尿の症状が出ない場合もあります。
- 残尿感・尿漏れ: 前立腺がんによって尿道の調整機能が損なわれることで、尿を出し切れない、あるいは尿意とは関係なく尿が漏れるという症状が現れます。
注意すべき点: 上記の症状は、前立腺がん以外にも、前立腺肥大症など様々な原因で起こりうるため、自己診断は危険です。 必ず医師の診察を受けてください。
前立腺がん検診:リスク要因
前立腺がんのリスクを高める要因はいくつかあります。
- 家族歴: ご家族に前立腺がんの方がいる場合は、リスクが約2倍になります。複数人(兄弟や父親など)がいる場合は、4倍以上に上昇すると言われています。
- 肥満: 肥満もリスク要因です。食事の欧米化などが影響し、日本人の前立腺がん罹患率は上昇傾向にあります。特に、肉類に含まれる飽和脂肪酸が男性ホルモンの上昇に繋がる可能性が指摘されています。
- 年齢: 男性の場合、50歳頃から右肩上がりで罹患率が増加し、80歳頃には2人に1人が前立腺がんになるといわれています。
- 高収入・高学歴: 興味深いことに、高収入・高学歴な人、社会性よりも孤独を好む人に前立腺肥大症のリスクが高いというデータも一部存在します。
ハーバード大学の研究: 40代男性を対象とした研究では、月に21回以上の性交をする男性は、前立腺がんのリスクが低下することが分かっています。週5回以上の性行為が必要なため、実現は難しいですが、可能な限り性行為を行うことはリスク低減に繋がる可能性があります。
これらのリスク要因に該当する方は、前立腺がん検診を受けることを検討する価値があります。
前立腺がん検診のデメリット
前立腺がん検診には、メリットだけでなく、大きなデメリットも存在します。
過剰診断と精神的負担
冒頭のケーススタディのように、治療の必要がない前立腺がんが発見されることがあります。 これは、患者さんにとって大きな精神的負担となります。 がんと宣告された後の不安、治療の必要性がないとしても、体にがんがあるという事実は、日常生活に影を落とす可能性があります。
検査に伴うリスクと負担
前立腺がんの診断には、PSA検査だけでなく、直腸診や経直腸超音波検査、生検など、様々な検査が必要になることがあります。特に生検は、お尻からエコーを挿入し、前立腺組織を採取する検査です。
- 痛み: ほとんど痛みは無いものの、検査自体が怖いという方も多いです。
- 感染リスク: 検査により細菌感染し、発熱や尿道が傷つき血尿が出るなどの合併症が起こる可能性があります。
- 費用と時間: 検査には費用と時間がかかります。
前立腺がん検診を受けるかどうかの判断
前立腺がん検診を受けるかどうかは、年齢、家族歴、リスク要因、そして何よりご自身の健康観と生き方を総合的に考慮して、主治医と相談して決定すべきです。
アメリカでも日本でも、無症状でのPSA検査の推奨度については意見が分かれています。アメリカ予防医学専門委員会は、無症状の人への検査は推奨していません。日本でも厚生労働省は、集団検診として前立腺がん検診を実施していません。
PSA検査値:どう解釈する?
PSA検査値が4以下であれば、多くの場合、前立腺がんはないと考えられます(例外あり)。10以上であれば、前立腺がんの可能性が高く、泌尿器科で精密検査を受ける必要があります。
精密検査では、医師による前立腺の触診、超音波検査、MRI検査、そして生検が行われることがあります。
まとめ:健康診断の目的を考える
健康診断は何のために受けるのでしょうか? 早期発見のためでしょうか? いいえ、それは健康であるためです。心も健康であることが大切です。
前立腺がん検診は、メリットとデメリットをしっかりと理解した上で、ご自身の状況、そしてご自身の考えに基づいて、主治医と相談して決めるべきです。
この記事が、前立腺がん検診に関する皆様の意思決定の一助となれば幸いです。