ポケモンスピードランナーJediWiiの不正行為:10個の記録と8500ドルの賞金スキャンダル

ポケモンスピードランナーJediWiiの不正行為:10個の記録と8500ドルの賞金スキャンダル

ポケモンスピードランナーJediWiiの不正行為:10個の記録と8500ドルの賞金スキャンダル

はじめに:驚愕のスピードラン不正行為

ポケモンシリーズのスピードランニング界隈で、衝撃的な不正行為が発覚しました。スピードランナーJediWiiは、4つの異なるポケモンゲームで10個もの記録を樹立していました。しかし、その輝かしい記録の裏には、巧妙なチート行為が隠されていたのです。本記事では、JediWiiの不正行為の詳細、その発覚までの過程、そしてスピードランニングコミュニティの対応について徹底的に解説します。 不正行為によってJediWiiは、約8500ドルもの賞金を獲得寸前でした。彼の不正行為は、スピードランニングにおける倫理と公平性の問題を改めて浮き彫りにする、重大な事件です。

ポケモンサファイアにおける疑惑の記録

JediWiiの不正行為が最初に疑われたのは、2023年11月17日に行われたポケモンサファイアのスピードランでした。彼は4日前に同ゲームのAny% Glitchlessカテゴリを2時間39秒でクリアしており、この時点で既に非常に高いレベルの技術を持つランナーであることが伺えます。 しかし、17日のランでは、なんと世界記録からわずか5秒差の2位という驚異的なタイムを記録したのです。

このタイムに、他のランナーたちは強い疑問を抱きました。というのも、2時間というタイムは、初挑戦で出すには異常に速すぎるというのです。JediWiiはDiscord上で、数日間ゲームの全セクションを練習していたと主張し、以前の試行では2時間2分台まで迫っていたものの、自転車セクションで苦戦していたと説明しました。

しかし、彼の主張を裏付ける証拠はほとんどありませんでした。2回目のランの動画は存在しましたが、それ以外の練習の様子やプレイデータなどは一切公開されていませんでした。この曖昧な点に目をつけたのが、世界記録保持者であるWaveWarriorでした。

WaveWarriorによる徹底的な分析:Run-to-BikeテクニックとRNG操作

WaveWarriorは、JediWiiのランを詳細に分析し始めました。JediWii自身も自転車セクションで苦労していたと発言していたため、WaveWarriorはまずこのセクションに注目しました。

具体的には、「Run-to-Bike」と呼ばれるテクニックに注目が集まりました。これは、特定の条件下で回転するトレーニングマシン(スピナー)をスキップする高度なテクニックです。スピナーは、プレイヤーの移動方法によって挙動が変化します。歩行中や自転車に乗っている場合は、32フレームごとにランダムな方向に視線を向けますが、走行中はプレイヤーの方向に常に視線を向けるため、走行中は必ずプレイヤーを捕捉します。

しかし、スピナーが方向を選択してから31フレーム間は静止しているため、この31フレームの間にスピナーをすり抜けることが可能です。このRun-to-Bikeテクニックは、非常に高度な操作技術を必要とするため、トップランナーですら成功率は高くありません。

WaveWarriorがJediWiiのランを分析した結果、7回行われたRun-to-Bikeのうち、いずれも安全にスピナーをすり抜けていないことが判明しました。中には、NPCが向きを変える前にすり抜けに失敗しかけているものや、動きを誤って視界内に留まってしまうものもありました。世界記録レベルのランナーであれば、これほど多くの失敗は考えられないのです。

さらにWaveWarriorは、ゲーム内の乱数生成(RNG)操作にも目を向けました。ポケモンサファイアでは、ソフトリセットを行うたびに乱数の種(シード)がランダムに決定されるはずですが、バグにより同じシードから始まるという問題が存在します。このバグを利用して、Mudkip、Kyogre、Wingullの3つのポケモンの出現と捕獲を操作するテクニックが存在します。

これらの操作(manipulation)は、特定のフレームで「続ける」ボタンを押すことで、既知の値を持つRNGを得る必要があります。その後、特定のルートを通ることで、狙ったポケモンを出現させ捕獲することが可能です。

このRNG操作において重要な要素の一つが「歩数」です。128歩ごとに、友好度メカニズムが50%の確率で進展し、RNGに影響を与えます。 JediWiiのランでは、Little Rootタウンを出る際に、通常ルートとは異なるルートを通り、結果として歩数が7歩少ない状態になっていました。このため、Wingullの操作を行う際に、修正措置が必要になります。

しかし、JediWiiは適切な修正を行わず、結果として歩数は5歩少なく、Wingullの操作に失敗する可能性が高まりました。にもかかわらず、彼のランではWingullの操作は成功しています。 これは、彼のパフォーマンスに疑問を抱かせる大きな要因の一つです。Kyogreの操作に関しても、同様に成功していますが、こちらも同様の疑問が呈されています。

さらに、JediWiiの回復アイテム(ポーション)の使用にも不自然な点がいくつも見られました。彼は危険な状態ではないにもかかわらず、何度もポーションを使用していました。これは、経験豊富なランナーであれば行わない行動です。 特に、ゲーム終盤でのKyogreの回復は、批判の的となりました。

Attempt Count(試行回数)の不自然さ

WaveWarriorは、JediWiiのAttempt Count(試行回数)にも注目しました。11月13日の最初のランでは256回、17日の2位ランでは1126回という記録でした。これは4日間で870回の試行を行ったことを意味します。JediWiiはDiscord上で、1日14時間プレイしていたと主張しましたが、この主張には矛盾点がありました。

Mudkipの操作を行うには、ソフトリセットを繰り返す必要があり、その初期リセットポイントでの試行回数を計算すると、48時間以上を費やしていることが分かりました。残りの時間では、わずか4回のランしか行えていないことになります。これは、彼の主張を裏付ける証拠とはなりません。

ポケモンダイヤモンド・パールにおける不正の証拠

JediWiiの不正疑惑は、ポケモンサファイアだけにとどまりませんでした。彼は、ダイヤモンド・パールAny% Manipulationlessカテゴリでも複数のレースに参加し、記録を樹立していました。特に、59分46秒という世界記録は、このカテゴリ初の1時間切りタイムとして大きな注目を集めました。

しかし、このランにも多くの問題点がありました。このカテゴリでは、最初の2つのジムと2回のTeam Galacticとの遭遇をクリアした後に、Hall of Fameカットシーンへワープするバグを利用します。成功率を上げるため、初期ポケモンの能力値(IV値)と隠れ特性を操作する必要があります。

JediWiiは、このランで非常に有利な隠れ特性「グラス」を持つChimcharを使用していましたが、その能力値は適切な調整が行われていない可能性がありました。彼は、ライバルのStarlyに対しては「効果が薄い」攻撃、Piplupに対しては「効果抜群」の攻撃を繰り出していました。これは、隠れ特性が「グラス」であることを示唆しますが、通常であれば、ジム戦前に追加経験値を得て能力を強化するのが一般的です。しかし、JediWiiはジム戦に直接挑みました。これは、レースにおいてリスクの高い戦略です。

これらの疑問を解決するために、MinnowというランナーがJediWiiのランを分析しました。彼は、Trainer IDからRNGシードを逆算するツールを用いて、JediWiiが使用したChimcharのIV値とRNGシードを特定しようと試みました。その結果、JediWiiのランで使用されたChimcharは、計算されたRNGシードのいずれにも存在しないことが判明しました。これは、ランが編集されている(splice)明白な証拠です。

さらに、Trainer IDから算出されたシードから生成されるChimcharの隠れ特性も「グラス」ではありませんでした。 これらの事実は、JediWiiのランが不正であったことを示す決定的な証拠となりました。 Minnowは、Trainer IDシードをランに適用し、NPCの挙動を比較することで、さらに不正を立証しました。

他のゲームにおける不正行為とコミュニティの対応

JediWiiは、ポケモンサファイアとダイヤモンド・パール以外にも、複数のゲームで記録を樹立していました。これらの記録についても、同様の不正が行われていた可能性が高く、コミュニティの調査によって、多くの不正行為が明らかになりました。

特に、彼のPokémon Red Any% Glitchlessの記録についても、Attempt Count(試行回数)の矛盾や、彼自身の不自然な発言などから、不正であると判断されました。

コミュニティのモデレーションチームは、JediWiiのDiscordアカウントとリーダーボードへのアクセスを禁止しました。彼は、増加する学校スケジュールの都合によるスピードランからの引退を発表しましたが、その後、不正行為を認めるPastebinを投稿しました。

このPastebinの中で、彼はサファイア、レッドクラシック、レッドGlitchlessのランで不正行為を行っていたことを認め、賞金獲得を狙っていたこと、嘘をついていたことを後悔していると述べました。 しかし、彼の主張には矛盾点が多く、彼の発言の信憑性を疑わせるものもありました。

JediWiiの巧妙な編集技術と不正の隠蔽

JediWiiは、動画編集ソフトウェアに精通しており、巧妙な編集技術を用いて不正を隠蔽していました。彼はYouTubeで音楽やPhotoshopチュートリアルなどの動画を作成しており、Pokemonチャレンジビデオチャンネルも運営していました。このチャンネルは現在は削除されていますが、過去には多くの動画がアップロードされていました。

彼は、高い動画編集スキルを利用して、spliceを検知されないようにランを編集していたのです。特に、ダイヤモンド・パールでのランではフラッシュカートを使用していたと主張しましたが、動画のロード時間はDSとほぼ同じでした。これもまた、彼の編集スキルの高さを示す証拠です。

彼は、パソコンの性能が低いという理由でローカルでの録画をしていなかったと主張していましたが、これは、古いPCでも録画ソフトとエミュレータを十分に動かすことが可能なことを考えると、説得力のある主張ではありません。

まとめ:スピードランニングにおける不正行為の深刻さとコミュニティの対応

JediWiiのケースは、スピードランニングにおける不正行為の深刻さと、コミュニティの不正対策の重要性を改めて示すものです。彼は、巧妙な方法で不正を行い、多額の賞金を獲得しようとしていました。しかし、コミュニティのランナーたちの鋭い観察眼と徹底的な分析によって、彼の不正行為は明るみに出され、適切な処分が下されました。

本件は、スピードランニングコミュニティにおける倫理と透明性の重要性を再確認する機会となりました。 不正行為の撲滅と、健全なコミュニティの維持のためには、更なる対策が必要であると言えるでしょう。 また、この事件は、スピードランを視聴する私たちにとっても、記録の裏側にある努力や倫理的な問題について、深く考えるきっかけを与えてくれます。