2000年の謎!数学史上最古の未解決問題「奇数の完全数」とは?

2000年の謎!数学史上最古の未解決問題「奇数の完全数」とは?

2000年の謎!数学史上最古の未解決問題「奇数の完全数」とは?

紀元前5世紀から続く、数学史上最古の未解決問題をご存知でしょうか?それは**「奇数の完全数」の存在**に関する問題です。2000年以上もの間、世界中の天才数学者たちが挑み続けてきたこの難問、その魅力と歴史を紐解いていきましょう。

完全数とは?

まず、問題を理解するために「完全数」について知っておく必要があります。完全数とは、自身を除く約数の和が自身に等しい数のことです。

例えば、6は完全数です。6の約数は1, 2, 3, 6ですが、自身を除く約数の和は1 + 2 + 3 = 6となり、元の数6に等しくなります。

他の完全数としては、28 (1 + 2 + 4 + 7 + 14 = 28)、496、8128などが知られています。これらは全て偶数であることが共通点です。

奇数の完全数は存在するのか?

さて、ここで問題の本質が見えてきます。古くから知られている完全数は全て偶数ですが、奇数の完全数は存在するのでしょうか? これが2000年以上も解明されていない、数学史上最古の未解決問題の一つなのです。

この問題のシンプルさが、多くの数学者を魅了してきた理由の一つです。解を見つけるのは、たった一つの奇数の完全数を見つけ出すだけかもしれません。しかし、その「たった一つ」を見つけることが、驚くほど困難なのです。

コンピュータを用いて$10^{2200}$までの奇数を調べ尽くしたものの、奇数の完全数は未だ見つかりません。一体なぜ、この問題はこれほどまでに難しいのでしょうか?

古代ギリシャからの挑戦:ユークリッドとニコマコス

紀元前300年頃、ユークリッドは偶数の完全数の生成方法を発見しました。

それは以下の手順です。

  1. 1を2倍する。
  2. 2倍した結果をさらに2倍していく (2, 4, 8, 16, 32…)
  3. 1から上記の結果を順次足していく (1+2, 1+2+4, 1+2+4+8…)
  4. 足し合わせた結果が素数であれば、その素数に数列の最後の数を掛けると完全数になる。

例えば、

  • 1 + 2 = 3 (素数) → 3 × 2 = 6 (完全数)
  • 1 + 2 + 4 = 7 (素数) → 7 × 4 = 28 (完全数)
  • 1 + 2 + 4 + 8 = 15 (素数ではない)
  • 1 + 2 + 4 + 8 + 16 = 31 (素数) → 31 × 16 = 496 (完全数)

この方法は、多くの偶数の完全数を生成できますが、全ての偶数の完全数がこの方法で生成できるかは証明されていません。また、この方法では奇数の完全数は生成できません。

ユークリッドの発見から約400年後、ニコマコスは『算術入門』において、完全数に関する5つの予想(推測)を立てました。

  1. n番目の完全数はn桁の数である。
  2. 全ての完全数は偶数である。
  3. 全ての完全数は6と8で交互に終わる。
  4. ユークリッドのアルゴリズムは全ての偶数の完全数を生成する。
  5. 無限に多くの完全数が存在する。

これらの予想は、その後1000年以上も事実として受け入れられてきました。

ニコマコスの予想の反証とメルセンヌ素数

13世紀、エジプトの数学者イブン・ファラースは、10個の完全数とその対応する値をリストアップしました。しかし、そのうち3つは完全数ではありませんでした。

この発見は、ニコマコスの最初の予想(n番目の完全数はn桁の数である)と3番目の予想(全ての完全数は6と8で交互に終わる)を否定するものでした。

17世紀、フランスの数学者マリ=メルセンヌは、ユークリッドのアルゴリズムを拡張し、$2^p - 1$(pは素数)という形式の素数、後にメルセンヌ素数と呼ばれるものに着目しました。 メルセンヌ素数から偶数の完全数が作れるため、メルセンヌ素数の探索が完全数の探索と密接に関連することになります。彼は11個のメルセンヌ素数を提示しましたが、その妥当性については議論の余地がありました。

オイラーの偉大な貢献

18世紀、スイスの数学者レオンハルト・オイラーが登場します。オイラーはデカルトの研究を引き継ぎ、重要な3つの貢献をしました。

  1. 8番目の完全数の発見: オイラーはメルセンヌ素数に基づき、8番目の完全数を発見しました。
  2. ユークリッド・オイラーの定理: オイラーは、全ての偶数の完全数はユークリッドの方法で生成できることを証明しました。これは1600年以上未解決だった問題の解決であり、ニコマコスの4番目の予想を証明した偉業です。
  3. 奇数の完全数の形に関する予想: オイラーは、もし奇数の完全数があるとするならば、特定の形でなければならないという予想を立てました。

しかし、オイラー自身も奇数の完全数の存在については証明できませんでした。「奇数の完全数が存在するかどうかは、非常に難しい問題である」とオイラーは記しています。

計算機時代の到来とメルセンヌ素数大捜索

オイラー以降、150年間は奇数の完全数に関する進展はほとんどありませんでした。1952年、アメリカの数学者ラファエル・ロビンソンは、コンピュータを用いてメルセンヌ素数の探索を始め、10ヶ月で5つの新しいメルセンヌ素数、そしてそれに対応する完全数を発見しました。

その後、コンピュータの性能向上により、多くのメルセンヌ素数が発見されました。1996年には、GIMPS(Great Internet Mersenne Prime Search)というプロジェクトが開始され、世界中のコンピュータがメルセンヌ素数の探索に参加するようになりました。これにより、多くの新しいメルセンヌ素数、そして完全数が発見されています。

奇数の完全数:最新の状況と今後の展望

2017年には、GIMPSによって50番目のメルセンヌ素数が発見されました。これは2300万桁を超える巨大な数です。

しかし、奇数の完全数は依然として未発見です。 研究者たちは、奇数の完全数が存在するとすれば、途方もなく巨大な数でなければならないことを示しています。現在の計算能力では、そのような巨大な数を調べるのは事実上不可能です。

そのため、奇数の完全数の存在を証明・反証するためには、計算による探索ではなく、より高度な数学的なアプローチが必要とされています。

研究者たちは、奇数の完全数が満たすべき条件(「条件の網」と呼ばれる)を増やすことで、最終的に奇数の完全数の存在を否定しようと試みています。しかし、現時点では、その網は完全ではなく、奇数の完全数の存在を完全に否定するには至っていません。

「スプーフ(Spoof)」と呼ばれる、奇数の完全数に非常に近い性質を持つ数が研究されており、このスプーフの性質を解明することで、奇数の完全数の存在を否定できる可能性が期待されています。

奇数の完全数の存在:なぜ重要なのか?

奇数の完全数の存在問題には、現時点では実用的な応用はありません。しかし、それはこの問題が重要ではないということを意味しません。

2000年以上も未解決の問題に挑み続けることは、数学の基礎理論を深めることにつながり、予想外の発見や応用につながる可能性があります。 過去の例として、数論はかつては純粋数学の分野と思われていましたが、20世紀になって暗号技術に必須の技術となったことは有名です。

純粋な探究心から生まれた数学の成果が、現代社会の安全保障を支えているのです。奇数の完全数の存在問題も、同様の可能性を秘めていると言えるでしょう。

まとめ:未解決の謎への挑戦は続く

2000年以上もの間、数学者たちを魅了し続けてきた「奇数の完全数」問題。 その解明は、未だ遠い未来にあるかもしれません。しかし、この問題への挑戦は、数学の深淵を探求し、新たな知見を産み出す、重要な試みなのです。 そして、あなたが数学を愛するならば、この未解決問題に挑むことも、全く不可能ではないでしょう。 もしかしたら、あなた自身が数学の歴史に名を刻む発見をするかもしれません。