Monad:次世代高性能EVM L1ブロックチェーンの可能性と課題
- 2024-12-09
Monad:次世代高性能EVM L1ブロックチェーンの可能性と課題
はじめに
Monadは、イーサリアム仮想マシン(EVM)を根本から再設計し、並列実行を可能にした、超高性能L1ブロックチェーンです。本記事では、Monadの技術的な詳細、特に並列実行、カスタムデータベースMonadDB、コンセンサスアルゴリズムMonadBFT、そして遅延実行について解説します。最後に、Monadの可能性と課題、そして今後の展望について考察します。
Monad:Solanaキラーになれるか?
Monadは、毎秒1万件を超えるトランザクション処理能力を誇る、と主張しています。これは、イーサリアムの処理能力をはるかに凌駕する数値であり、もし実現すれば、現在のブロックチェーンにおけるスケーラビリティ問題を解決する大きな一歩となるでしょう。しかし、その実現可能性、そして市場における成功は、未だ不確定要素が多く残されています。 本記事では、その技術的根拠を深く掘り下げ、Monadが本当にSolanaキラーとなりうるのかどうか、客観的に分析していきます。
1. オプティミスティック並列実行:EVMのパラダイムシフト
Monadの最大の特徴は、オプティミスティック並列実行です。従来のEVMは、トランザクションを逐次的に処理するため、処理速度がボトルネックとなっていました。一方、SolanaのSealevel VMをはじめ、多くの高性能ブロックチェーンは並列実行を採用することで、この問題を克服しています。しかし、EVMは並列処理に適した設計になっていません。
では、Monadはどうやってこの不可能を可能にしたのでしょうか?
Monadは、トランザクションの実行を車の通行料金支払いというアナロジーで説明しています。
- 車: トランザクション
- 車線: スレッドまたはコア(並列処理ユニット)
- 料金所: トランザクション実行と最終料金計算を行う処理
従来のEVMは、一台ずつ順番に料金所を通過させるのに対し、Monadは複数の車線を用意することで、複数の車が同時に料金を支払うことを可能にしています。しかし、複数の車が同じ資源(例えば、残高が限られたガソリンスタンド)を同時にアクセスしようとすると、衝突が起こります。
Monadはこの衝突問題を、オプティミスティックなアプローチで解決しています。
- 並列実行: まず、可能な限り多くのトランザクションを並列に実行します。
- 衝突検出: 衝突(同じ状態への同時アクセス)が発生した場合、そのトランザクションを識別します。
- 逐次実行: 衝突が発生したトランザクションは、順番に再実行します。
この方法では、最悪の場合でも逐次実行と同じ速度になりますが、多くのトランザクションが並列に処理できるため、平均的な処理速度は大幅に向上します。また、Solidity開発者は、特別な言語を学習する必要なく、既存のコードをそのまま使用できます。
2. MonadDB:高速で検証可能なデータベース
並列実行を実現する上で、データベースの速度も重要な要素となります。従来のデータベースは、速度を優先し、ブロックチェーンに必要な検証可能性を犠牲にする傾向があります。
Monadは、カスタムデータベースMonadDBを開発しました。MonadDBは、イーサリアムと同じMerkle Patricia Treeを使用していますが、従来のデータベースに格納するのではなく、ディスクとRAMに直接アクセスすることで、高速な読み書きを実現しています。さらに、MonadDBは並列化された読み書きに対応しており、並列実行による処理速度の向上を妨げません。
Merkle Treeとは?
Merkle Treeは、データの整合性を検証するためのデータ構造です。葉ノードはトランザクション、内部ノードはハッシュ値を表し、ルートノードは全体のハッシュ値を示します。この構造により、データの一部が変更されると、ルートノードのハッシュ値も変化するため、データの改ざんを検出できます。ブロックチェーンでは、このMerkle Treeが広く利用されており、データの改ざんを防ぐ重要な役割を果たしています。
3. MonadBFT:1秒ブロック時間とシングルスロット確定性を実現するコンセンサスアルゴリズム
Monadは、独自のコンセンサスアルゴリズムMonadBFTを採用することで、1秒のブロック時間とシングルスロット確定性を達成しています。MonadBFTは、HotStuffをベースに、いくつかの改良を加えた二段階BFTアルゴリズムです。
HotStuffとは?
HotStuffは、高速で効率的なBFTコンセンサスアルゴリズムです。Tendermintに比べて、より効率的で、多くのノードをサポートできます。Tendermintは全ノード間で通信を行うのに対し、HotStuffはリーダーノードと他のノードとの間だけで通信を行うことで、通信オーバーヘッドを削減しています。
MonadBFTの特長:
- オプティミスティック応答性: リーダーノードが他のノードとの通信を最適化することで、より高速なコンセンサス形成を実現。
- 遅延実行(非同期実行): コンセンサスと実行を分離することで、実行時間を延長し、より多くのトランザクションを処理可能に。
遅延実行によるブロック時間短縮:
MonadBFTは、遅延実行(非同期実行)によってブロック時間を短縮しています。従来のブロックチェーンでは、コンセンサス形成後、トランザクションを実行しますが、MonadBFTでは、コンセンサス形成とトランザクション実行を分離しています。コンセンサス形成はブロック時間内に完了し、トランザクション実行は次のブロックで実行されます。これにより、ブロック時間はコンセンサス形成時間のみとなり、大幅に短縮されます。
この仕組みにより、10秒のブロック時間の中で、9秒間はコンセンサス形成に、1秒間は実行に充てられていた時間が、コンセンサス形成に10秒、実行に次のブロックの10秒と分散されるため、全体のスループットが向上します。ただし、確定性(finality)はブロック1つ分遅れるというトレードオフが存在します。
Monadの技術的優位性:並列化された3つの要素
Monadは、実行環境、データベース、コンセンサスアルゴリズムの3つの主要な要素全てにおいて並列化を追求することで、卓越したパフォーマンスを実現しようとしています。 これは、単に1つの要素を改善しただけでは達成できない、極めて高度な技術的挑戦と言えるでしょう。
課題と将来展望:L1チェーンとしての成功は?
Monadは優れた技術を有していますが、成功への道は容易ではありません。最大の課題は、L1チェーンとしての必要性です。市場にはすでに多くの優れたL1チェーン、そしてL2ソリューションが存在しており、新たなL1チェーンが成功するためには、独自の強みと明確な価値提案が必要です。
Monadは、Avalancheのような過去の例を踏まえ、技術的な優位性だけでは不十分であることを認識する必要があります。コミュニティの育成、エコシステムの構築、開発者へのサポートなど、技術面以外の要素も重要です。
Monadの技術的な可能性は高く評価できますが、L1チェーンとしての将来性、市場における成功は、時間と市場の反応によって検証される必要があるでしょう。
まとめ:Monadの可能性と今後の注目点
Monadは、オプティミスティック並列実行、MonadDB、MonadBFTという3つの革新的な技術を融合することで、超高性能EVM L1ブロックチェーンを目指しています。その技術的な優位性は、高い処理能力とスケーラビリティを実現する可能性を秘めていますが、市場における成功のためには、技術的な優位性に加えて、コミュニティ育成、エコシステム構築、そして市場ニーズへの的確な対応が不可欠です。
今後のMonadの動向、特にメインネットローンチ後のパフォーマンス、開発者コミュニティの拡大、そしてdAppのエコシステムの成長は、その将来性を判断する上で重要な指標となるでしょう。 本記事が、読者の皆様のMonadへの理解を深める一助となれば幸いです。