もしICBMが使用されたら?その脅威と防衛システムの現状を徹底解説

もしICBMが使用されたら?その脅威と防衛システムの現状を徹底解説

もしICBMが使用されたら?その脅威と防衛システムの現状を徹底解説

2024年11月、ロシアとウクライナの戦争において、世界を騒然とさせたニュースが飛び込んできました。それは、ウクライナがロシアが大陸間弾道ミサイル(ICBM)を使用したと発表したというものです。 もしこれが事実であれば、人類史上初めてICBMが実戦で使用されたことになります。しかし、発表当初からその情報の信憑性には疑問符がついており、ロシアは後に新型の中距離弾道ミサイルの使用を発表しました。 ICBM使用の可能性は低いとはいえ、もし本当にICBMが使用されたら何が起きるのか?ICBMはどのようにして目的地に到着するのか?そして、迎撃する手段はあるのでしょうか?本記事では、ICBM使用時のシナリオ、その脅威、そして現状の防衛システムについて深く掘り下げて解説します。

ICBMとは何か?その脅威と国際情勢への影響

「大陸間弾道ミサイル」という名前からもわかるように、ICBMは射程が非常に長いミサイルです。一般的には射程5500キロメートル以上のものを指しますが、現実のICBMの射程は1万キロメートルを優に超えるものもあります。

この超長射程が、保有国にとって2つの大きな意味を持つことになります。

1. 世界規模での戦争勃発の可能性:

ICBMは核兵器を搭載できるため、理論上、自国の周辺地域だけでなく、世界中に攻撃を仕掛けることが可能です。極端な話、遠く離れた国を完全に破壊することもできるということです。 これは、世界規模の紛争にエスカレートするリスクを劇的に高めることを意味します。

2. 相互確証破壊(MAD)の維持:

以前の記事でも紹介した相互確証破壊(MAD: Mutually Assured Destruction)は、十分な核兵器を保有している国同士が戦争した場合、どちらかの国が核兵器を使用すれば、相手も核兵器を使わざるを得なくなり、最終的に両国が壊滅するという考え方です。理性的であれば、この事態を避けるよう行動するはずです。

しかし、この理性的判断が崩れた場合どうなるでしょうか?先制攻撃で相手国の核兵器を全て破壊してしまえば、反撃で核爆弾が使われることはない、と考える指導者も存在するかもしれません。

ICBMと核兵器:切っても切れない関係

11月にロシアがICBMを使用したというニュースが流れた際、国際社会が騒然となったのは、ICBMと核兵器が密接に結びついているためです。ICBMの使用は、核兵器の使用を意味するといっても過言ではありません。

ICBM発射から着弾までの手順:アメリカとロシアの事例

では、もしICBMが本当に使用されたとしたら、どのような手順で決定されるのでしょうか?そして、着弾までの猶予はどの程度あるのでしょうか?

アメリカの場合:

  • アメリカとロシアは、圧倒的な核弾頭数を誇り、どちらもICBMが自国に向けて発射された場合の対応手順を確立しています。
  • 多数の偵察衛星を持ち、それらの監視によって1分以内にはICBMの発射を検知できます。
  • 許可が下りれば、アメリカはミサイル発射から22分以内、ロシアは10分以内に自国のICBMを発射できる体制が整っています。
  • アメリカでは、ICBM発射の情報はまず北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)とアメリカ戦略軍に送られ、分析の上、危険度が中程度以上と判断された場合、9分以内に大統領へ知らされます。
  • 最終的な発射判断は、大統領の指示に基づき、国家軍事指揮センターの承認を経て行われます。

ロシアの場合:

  • まず情報はロシア連邦軍参謀本部へ伝えられ、本物と判断された場合は、3つの「チェゲット」と呼ばれるブリーフケースにアラートが伝えられます。
  • ブリーフケースの持ち主は、大統領、国防相、そしてロシア連邦軍参謀総長です。
  • ICBM発射の許可を出すのは大統領ですが、3名中少なくとも2名が同意しなければICBMは発射されない仕組みになっています。

いずれの場合も、報復のICBM発射には数十分しかかかりません。これはICBMの驚異的な速度が理由です。ICBMは地球上のどこから発射されたとしても、ターゲットに着弾するまでには30分から1時間程度しかかからないことが知られています。

ICBMの3段階の飛行と迎撃の可能性

多くのICBMは3つの段階を経てターゲットに着弾します。

1. ブースト段階:

ミサイルは3分から5分かけて大気圏外へ一気に加速します。この段階では宇宙を目指すロケットとほぼ変わらず、冷戦時代にアメリカとソ連が競い合うように宇宙開発を行っていたことからも、ICBMに技術を転用できるという事情もあります。最終的には秒速4キロメートルから7キロメートルほどになり、高度も地表150キロメートルから400キロメートルと、低軌道衛星の宇宙空間まで達します。この段階では各国はICBMの発射を検知できますが、迎撃は現実的ではありません。

2. ミッドコース段階:

およそ20分続くのが一般的です。この段階では宇宙空間を着弾点に向けて進みますが、速度は秒速7キロメートルに達することもあります。弾頭よりもはるかに速い速度で進む物体を捉えるのは容易ではありませんが、一部の国はこの段階のICBMを撃墜することを想定しています。

迎撃システムは、似たようなミサイルを宇宙空間内で衝突させてICBMを破壊するものが多いのですが、その有効性には疑問が残ります。ICBM側は突然の方向転換やデコイの放出など、取れる対策が豊富であり、基本的にICBM側のほうが低コストだからです。迎撃システムに資金を投入するよりも、強力なICBMに注力し、そもそもICBMを撃たれにくくする方が有効となるのは、残念ながら自然の流れでしょう。

3. ターミナル段階:

目的地の上空100キロメートル付近から落下を開始します。宇宙空間から大気圏へ突入するため、凄まじい熱が発生します。そのため、ICBMには弾頭の周囲をヒートシールドで覆う必要があり、昔ながらのICBMではこの段階の速度に制限がありました。

しかし、近年開発されたICBMは、この段階で複数の弾頭に分割し、迎撃しにくくするとともに、複数のターゲットを同時に、かつ精密に攻撃することが可能です。速度も秒速7キロメートル前後を維持できるため、迎撃は極めて困難です。迎撃システムも開発されていますが、迎撃時間は30秒ほどと非常に短く、迎撃した時点では自国の領土に近く、被害を抑えるのに苦労するでしょう。

このタイミングを逃すと、極めて高い確率で核爆弾が自国の領土で爆発します。そうなると、全面核戦争へと発展してもおかしくなく、文明社会の滅亡すら視野に入ります。

ICBM:人類への脅威と未来

文字通り地球の裏側からでも最短30分ほどで到達し、人類全体へ多大な影響を与える可能性のあるICBM。迎撃も不可能ではありませんが、コストを考えると、そもそもICBMを撃たれないように立ち回る方が得策です。ここ数十年、人類は自国で多くのICBMを抱えることでこの問題を解決しようと試みてきました。果たして今後、同じ戦略が通用するのでしょうか?その答えを人類が知る日は、そう遠くない未来なのかもしれません。最悪の事態に発展しないことを祈るばかりですが、もしもの時に備えて、宇宙開発を進展させるのも悪くないアイデアでしょう。

今回の解説はここまでです。またお会いしましょう。