遺伝子多型(SNPs)が決定づける7つの驚くべき人間の特性

遺伝子多型(SNPs)が決定づける7つの驚くべき人間の特性

遺伝子多型(SNPs)が決定づける7つの驚くべき人間の特性

私たちの身体的特徴や嗜好、さらには病気への罹患率までも、遺伝子によって決定づけられていることは周知の事実です。しかし、その遺伝子の違いが、私たちの生活にどれほど大きな影響を与えているか、具体的にご存じでしょうか?

本記事では、一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)、略してスニップと呼ばれる遺伝子変異に着目し、スニップが私たちの生活に与える具体的な影響について、7つの事例を交えてご紹介します。

一見些細な遺伝子配列の違いが、驚くべき個性や特性を形作っていることを、ぜひご確認ください。

スニップとは何か?

そもそもスニップとは何でしょうか?簡単に説明すると、人間のDNAは約30億塩基対で構成されていますが、その中でたった1つの塩基が異なる場合、その違いをスニップと呼びます。

人間のDNAの大部分は共通していますが、身長や顔の造形、体質など、個人差が現れる部分では多くのバリエーションが存在します。このバリエーションの多くは、このスニップによるものです。

例えば、ある人のDNA配列のAの部分が、別の人ではGになっているようなケースです。このAやGといったDNA塩基の違いが、見た目や特性の違いにつながってくるのです。

スニップは人間のゲノム中に非常に多く存在しており、およそ1000塩基対に1つの割合で見られると言われています。そのため、全体で数百万ものスニップがあると推定されており、これらのスニップは個人の遺伝的多様性を示す重要な要素として研究されています。

研究によって見つかったスニップには、rs番号と呼ばれる識別番号が割り当てられ、アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)が管理するデータベースに登録されます。

遺伝子と人間の特性:7つの興味深い事例

それでは、rs番号が割り当てられたスニップの中から、特に興味深い特性の違いを示すものをピックアップして見ていきましょう。

1. パクチーの好き嫌い

パクチーは好きか嫌いかで、はっきりと二分される珍しい食材です。好きならばいくらでも食べられる一方、嫌いな人はどうやっても受け付けない、という人が多いのではないでしょうか?

実際、パクチーを好きな人は、柑橘系の風味を感じる一方で、嫌いな人はカメムシや石鹸のような風味を感じるという研究結果があります。この独特の香りの元は、アルデヒドによるものとされています。

この風味の感じ方は、嗅覚受容体遺伝子OR6A2をコードするDNAに存在するスニップによって決まっていることがわかっています。OR6A2遺伝子型には以下の3つのタイプがあり、パクチーの好き嫌いに関係しています。

  • AA遺伝子型: パクチーが苦手な可能性は低い。柑橘系の風味を感じる傾向がある。
  • AC遺伝子型: パクチーが苦手な可能性は低い。
  • CC遺伝子型: パクチーを石鹸のような臭いと感じる傾向がある。

OR6A2嗅覚受容体はアルデヒドによって活性化されると言われています。このDNAの変異によって、受容体の働きが変わり、パクチーの風味の感じ方が異なると考えられています。

研究では、アジア系の人はヨーロッパ人に比べて石鹸の味を検出する可能性が有意に低いと結論付けられており、エキゾチックな風味のパクチーが好んで使用されることも納得できる結果となっています。日本は例外かもしれません。

2. アスパラガスの尿の臭い

アスパラガスを食べた後に尿が臭くなるという経験がある人もいるのではないでしょうか?

アスパラガスを食べた後に尿が臭くなるかどうかは、嗅覚受容体遺伝子OR2M7をコードするDNAに存在するスニップによって決まっていることがわかっています。尿の臭いの元は、アスパラガスの摂取によって体内で作られるメタンチオールです。

臭いの変化を感じない人は、これらの代謝物が体内で作られていないわけではなく、OR2M7のDNAに存在するスニップの違いによって、臭いを感じることができるかどうかに違いがあることが判明しました。つまり、臭いの元は共通して生成されるものの、それを感知できるかどうかは遺伝子によって異なるのです。

この様に、嗅覚受容体遺伝子には様々な遺伝子がありますが、それらの変異によって特定の化学物質の受容の仕方が異なり、結果として食材の好き嫌い、そして臭いの感じ方の違いにつながることがあります。

最近では、香水や柔軟剤などに含まれる香料成分によって頭痛や不快感などを引き起こす害が問題になっています。これらの個人差にも、スニップが関わっている可能性があります。

3. 日本人の乳糖不耐症

多くの哺乳類では、乳糖を分解する酵素であるラクターゼの産生量が、離乳期から成人期にかけて徐々に減少するように調節されています。この現象は**乳糖不耐性(LNP)**として知られています。

成人期になっても十分な量のラクターゼを産生し、大量の乳糖を分解・利用できる人は、世界人口の約1/3に相当します。この特性は遺伝的に決定され、**ラクターゼ持続性(LP)**と呼ばれています。

特に北ヨーロッパでは、約90~97%の人がラクターゼ持続性を有する一方、日本人は50%に満たないという報告もあります。

乳糖不耐症は、ラクトースを分解する酵素であるラクターゼの活性低下によって、乳製品を摂取した際に消化不良を起こす状態です。ラクターゼが働かず高濃度になった乳糖が、腸管に水分を引き寄せ、腹痛や下痢を引き起こします。

ラクターゼをコードする遺伝子LCTの調節領域に存在するスニップは、この乳糖不耐症を引き起こすかどうかの重要な因子とされています。

CC型は乳糖不耐症型、TT型は乳糖耐性型と言われており、成長とともにラクターゼの発現が減少するかどうかに違いがあります。乳糖不耐症はアジアやアフリカ地域で一般的に見られる一方、TT型は北ヨーロッパや中東地域で多く見られるようです。

進化の観点から見ると、乳糖不耐症は、人々の食生活や環境との関わりが深いとされています。酪農文化が発達した地域では、乳製品を摂取する機会が多かったため、ラクターゼの活性を維持するTT型が自然淘汰によって広まったと考えられています。

LPの人は牛乳からより多くのカロリーを得られ、消化トラブルが少ないというメリットがあります。そのため、LPは自然淘汰において有利な性質であり、将来的にはその割合が増加する可能性もゼロではありません。

4. お酒の強さ

アルコールに対して強い人、弱い人、全く受け付けない人といったタイプがありますが、これにはスニップが大きく影響しています。

アルコールの代謝経路では、アセトアルデヒドに分解された後、ALDHという酵素によって酢酸に変換されます。この過程で生じるアセトアルデヒドは毒性が強く、血管拡張作用によって顔面紅潮、動悸、吐き気といった症状を引き起こします。

そのため、ALDHの働きが正常であるかどうかは、アルコールに対する耐性、いわゆるお酒の強さに直接的な影響を与えます。ALDHの中でも、ALDH2はアセトアルデヒドに働く強力な酵素であり、アルコール代謝において特に重要な役割を果たしています。

このALDH2をコードする遺伝子の代表的なスニップがrs671です。このスニップには、正常型のGと不活性型のAの2種類があり、遺伝子型の組み合わせ(GG、GA、AA)によって酵素の活性度が大きく異なります。

  • GG型: 正常型で、ALDH2酵素が正常に機能するため、アセトアルデヒドを効率よく分解できます。そのため、アルコールに対する耐性が高く、比較的にお酒に強いとされています。
  • GA型: 中間型で、ALDH2酵素の活性が低下し、アセトアルデヒドの分解能力が部分的に低下します。結果、アルコール耐性は中等度となり、少量のお酒で顔が赤くなることがあります。中間型とはいえ、理論上その活性は正常型の1/6程度と言われ、GG型とGA型ではかなり差があります。
  • AA型: 不活性型で、ALDH2酵素がほぼ完全に不活性であり、アセトアルデヒドの分解が極めて遅くなります。そのため、お酒が非常に弱いタイプで、少量のアルコール摂取でもアセトアルデヒドが蓄積し、強い吐き気や不快感といった症状が現れます。

お酒の強さは、ALDH2の働きがほとんどを決定づけると言えます。お酒の訓練によってある程度強くなると言われますが、これは薬物を代謝する別の酵素MEOSが働くようになるためであり、根本的にはALDH2がアルコール代謝能力を決めていると言えるでしょう。

また、アルコール耐性は健康リスクとも密接に関連しています。遺伝的に不活性型である場合、アセトアルデヒドの蓄積により、食道癌や肝疾患のリスクが高まることが知られています。自身の遺伝子型を知り、それに反するような飲み方をすべきではありません。

5. 朝型・夜型

最近注目を集めている朝型・夜型についても、遺伝子の影響が注目されています。

概日リズムは、生物が持つ約24時間周期の生理的リズムで、睡眠、ホルモン分泌、代謝などを調節しています。このリズムは、体内時計や時計遺伝子によって制御され、環境の昼夜周期と同期します。

概日リズムの乱れは、睡眠障害、代謝異常、精神疾患などを引き起こす可能性があるため、遺伝子レベルで起こっていることは現代の研究で注目を集めています。

特に、クロノタイプは人が最も活動的になる時間帯の傾向を示す概念です。

  • 朝型: 朝活動的で、午後は疲れやすい。
  • 夜型: 夜遅くまで活動的で、朝起きるのが難しい。
  • 中間型: 朝型と夜型の中間で、比較的容易に過ごせる。

体内リズムには複数の遺伝子が関わっていますが、国立精神・神経医療研究センターが発表した論文では、人の体内時計に関わる遺伝子のスニップが、クロノタイプと特に有意に関連することが明らかになり、PR3遺伝子をコードするこのスニップが、睡眠パターンや日中の覚醒度と関連していることが示唆されました。

CC型は朝型ですが、変異によりCC型もしくはGG型になると、夜型になる可能性が高いとされています。昼間の過剰な眠気は、睡眠不足以外にも、実は遺伝子によって多少は左右されている可能性があります。

6. 記憶力

キブラ遺伝子は、人の記憶機能に深く関与する重要な遺伝子として知られています。

2006年にアメリカとスイスの共同研究チームが行った研究で発見され、この遺伝子が人の記憶機能を調節する役割を持つことが明らかにされました。キブラ遺伝子にはT型とC型の2つのタイプがあり、それぞれが記憶能力に異なる影響を与えることが報告されています。

特に、個人の経験や出来事を思い出すエピソード記憶のパフォーマンスにおいて、T遺伝子型を持つ人々は記憶力が高い傾向にある一方、C遺伝子型を持つ人々は記憶力が低下する傾向があることが示されています。

また、キブラ遺伝子のこの変異は空間能力や作業記憶も増強することが知られており、2023年に発表された論文では、チェスプレーヤーと科学の博士号を持つ人を対象に調査したところ、T型遺伝子の頻度が有意に高かったことが判明しています。

この遺伝子による記憶能力の傾向は高齢者においても健在であり、Tを持つ高齢者はCを持つ高齢者と比較して記憶力が優れていることが研究から明らかにされています。

もちろん、記憶力にはその他多くの外的要因も関わってきますが、このように素質というものは少なからずあるようです。

7. 鎌状赤血球症

最後に、遺伝子の自然淘汰でも語られることの多い鎌状赤血球症のスニップについて見ていきましょう。

赤血球をイメージすると、丸みがあり少し窪んだ形を思い浮かべる方が多いと思いますが、アフリカの一部の地域では、この形が鎌状に変化する鎌状赤血球症という病気がよく見られます。

鎌状赤血球症は、血液中の赤血球が異常な鎌型をとることで、様々な健康問題を引き起こす遺伝性疾患です。円盤状の正常な赤血球は柔軟性があり、体の細い血管まで酸素を届けることができますが、鎌状の赤血球は柔軟性がなく、血管内を移動する際に破壊されやすくなります。

通常の赤血球の寿命は90~120日であるのに対し、鎌状のものは10日~20日しかなく、そのため新しい赤血球を作って補うのが間に合わず、赤血球が不足した状態になります。

この疾患は、HBB遺伝子の変異によって異常なヘモグロビンが産生されることで起こります。鎌状赤血球症の原因となるスニップrs334は、通常Aである塩基配列がTになることで、ヘモグロビン分子の構造変化が起き、赤血球が硬く鎌型になります。

では、なぜアフリカ地域では赤血球がこの様な形に変化するのでしょうか?

実は、マラリアがよく見られる地域と鎌状赤血球スニップ変異の出現には、深い関係があります。マラリアは、蚊が媒介するマラリア原虫が血液中の赤血球に入り込んで増える病気です。鎌状赤血球症の人は、この原虫が赤血球に入るとすぐに溶血して破壊されるため、結果的にマラリア原虫の増殖を抑えることができるといわれています。

つまり、マラリア原虫にとって、鎌状赤血球は好ましくない環境なのです。スニップのAからT型への変異を両親から受け継いだTT型では、鎌状赤血球しか発現せず、マイナスな症状が目立つ一方、片親からしか受け継いでいないAT型(T型保有者)は、正常赤血球と鎌状赤血球のハイブリッドで産生できるため、AA型に比べマラリアに対する抵抗力を持っています。

このため、マラリアが流行する特定の地域では、進化上有利なスニップとして淘汰されずに残っていると考えられています。

まとめと今後の展望

本記事では7つのスニップについてご紹介しましたが、その他にも様々な人間の特性に関わるスニップが存在します。

何か面白いスニップをご存知でしたら、コメント欄に書き込んでいただければ幸いです。

この記事が、遺伝子と人間の特性の奥深さを理解する一助となれば幸いです。

スニペディアへの招待

本日は様々な遺伝的な多型についてご紹介しました。誰でもアクセスできるスニペディアには、これまでに発見されてきたスニップとその変異の仕方と特性についてまとめられています。

暇つぶしにでも覗いてみてはいかがでしょうか。

おわりに

最後までご視聴いただきありがとうございました。