あなたの個性は遺伝子で決まる?驚くべき遺伝子変異と人間の特性7選

あなたの個性は遺伝子で決まる?驚くべき遺伝子変異と人間の特性7選

あなたの個性は遺伝子で決まる?驚くべき遺伝子変異と人間の特性7選

私たちの体や性格、そして好みは、遺伝子によって大きく影響を受けています。 遺伝子レベルでのわずかな違い、特に**一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)**と呼ばれるDNA塩基配列の一塩基の違いは、驚くほど多様な生物学的特徴を生み出します。 本記事では、そんなSNPの中でも特に興味深い7つの例を紹介し、遺伝子と私たちの個性、生活との関わりを深く掘り下げていきます。

1. パクチーの好き嫌い:遺伝子レベルで決まる「香り」の受容

あなたはパクチーが好きですか?それとも嫌いですか? この好き嫌いは、単なる好みではなく、遺伝子によって大きく左右される可能性があることが分かっています。

パクチーは、好き嫌いがはっきりと分かれる珍しい食材です。好きな人は何杯でも食べられる一方、嫌いな人はどうしても受け付けない、という経験をお持ちの方も少なくないのではないでしょうか。

実際、パクチーを好きな人は、コウバシク(コリアンダー)や柑橘系の香りとして感じる一方、嫌いな人はカメムシや石鹸のような香りとして感じるといわれています。この独特の香りの元となるのは、アルデヒド類という物質です。

そして、この香りの感じ方は、なんと嗅覚受容体遺伝子OR6A2に存在するSNPによって決まる可能性が高いのです!

OR6A2遺伝子には、以下の3つのタイプがあります。

  • AA型: パクチーを嫌う可能性が高いタイプ。パクチーを石鹸のような匂いと感じる傾向があります。
  • AC型: パクチーを嫌う可能性が低いタイプ。
  • CC型: パクチーをコウバシクフルーツの様な香りとして感じるタイプ。

OR6A2嗅覚受容体は、アルデヒド類によって活性化されます。SNPによって受容体の機能が変化し、その結果、香りの感じ方が異なるというわけです。 アジア系の人々は、ヨーロッパ人に比べて石鹸様の味を検出する可能性が有意に低いという研究結果もあります。 パクチーが好んで使用されるエスニック料理が多いのも、この事実と関連があるのかもしれません。日本は例外かもしれませんね。

2. アスパラガスの尿の臭い:あなたは感じますか?

アスパラガスを食べた後、尿に独特の臭いを感じた経験はありますか? 実は、この臭いを感じるか感じないかも遺伝子によって決まる可能性が高いのです。

アスパラガス摂取後、尿が臭くなるのは、アスパラガスに含まれるアスパラガス酸が体内で代謝されて生じるメタンチオールという物質が原因です。

しかし、この臭い変化を感じない人もいます。 これは、体内でメタンチオールが生成されていないわけではなく、嗅覚受容体遺伝子OR2M7のSNPによって、臭いを感じ取れるかどうかが異なるためです。 つまり、臭いの元となる物質は誰もが作っているものの、その臭いに気づけるかどうかは遺伝子の違いによるのです。

嗅覚受容体には様々な遺伝子があり、それらの変異によって特定の化学物質の受容の仕方が異なり、結果として食材の好き嫌いや感知レベルの違いにつながることがあります。 近年、香水や柔軟剤などに含まれる香気成分によって頭痛や不快感などの健康被害が問題となっていますが、こうした個人差にもSNPが関わっている可能性が考えられます。

3. 乳糖不耐症:あなたは何タイプ?

多くの哺乳類では、離乳期以降、乳糖を分解する酵素であるラクターゼの産生量が減少します。これが乳糖不耐症です。

しかし、世界人口の約3分の1の人は、成人になっても十分な量のラクターゼを産生し、大量の乳糖を分解・利用することができます。この性質は**ラクターゼ持続性(LP)**と呼ばれ、遺伝的に決定されています。

特に、北ヨーロッパでは人口の90~97%がLPを持つのに対し、日本人は50%にも満たないといわれています。

  • CC型: 乳糖不耐症型。成長とともにラクターゼの発現が減少する。
  • TT型: 乳糖耐性型。成長後もラクターゼの発現が持続する。

乳糖不耐症は、ラクターゼの活性が低下することで、乳製品を摂取した際に消化不良を起こす状態を指します。消化されない乳糖が腸内に水分を引き寄せ、腹痛や下痢を引き起こします。

ラクターゼをコードする遺伝子LCTの調節領域にあるSNPは、この乳糖不耐症を引き起こすか否かを決定する重要な因子です。 TT型の人は、牛乳からより多くのカロリーを得ることができ、消化トラブルが少ないという利点があります。そのため、LPは自然淘汰で有利な性質であり、将来、その割合が増加する可能性もゼロではありません。

4. お酒の強さ:あなたのALDH2遺伝子タイプは?

お酒の強さは人によって大きく異なります。 強い人、弱い人、全く受け付けない人など、大きく分けて3つのタイプがあります。 これにもSNPが大きく関わっています。

アルコールの代謝経路では、アセトアルデヒドがアセトアルデヒド脱水素酵素(ALDH)によって酢酸に分解されます。この過程で生じるアセトアルデヒドは毒性が強く、血管拡張作用によって顔面紅潮、動悸、吐き気などの症状を引き起こします。

そのため、ALDHの働きが正常かどうかは、アルコールに対する耐性、つまり「お酒の強さ」に直接的な影響を与えます。 特に、ALDH2酵素の働きは重要です。ALDH2をコードする遺伝子の代表的なSNPが、rs671です。

  • GG型: 正常型。ALDH2酵素が正常に機能し、アセトアルデヒドを効率よく分解できるため、お酒に強い。
  • AG型: 中間型。ALDH2酵素の活性は低下し、アセトアルデヒドの分解能力が部分的に低下する。お酒に中程度。
  • AA型: 不活性型。ALDH2酵素がほぼ完全に不活性であり、アセトアルデヒドの分解が極めて遅くなるため、お酒に非常に弱い。

中間型であっても、正常型の1/100程度の代謝能力しかなく、少量のアルコールでも顔面紅潮を起こすことがあります。 お酒に弱いタイプは、分解酵素が働かないため、アセトアルデヒドが蓄積し、強い吐き気や不快感といった症状が現れます。お酒はトレーニングで強くなるという説もありますが、これは薬物代謝酵素の別の酵素が働くようになるためであり、ALDH2の能力は基本的に遺伝的に決まっていると言えます。 なお、アルコール耐性は健康リスクとも密接に関連しており、遺伝的に不活性型である場合、アセトアルデヒドの蓄積によって食道がんや肝疾患のリスクが高まることが知られています。

5. 朝型・夜型:体内時計遺伝子の影響

近年注目されている朝型・夜型。 これも遺伝子によって決まる可能性があることがわかってきました。

概日リズムとは、生物が持つ約24時間周期の生理的リズムで、睡眠、ホルモン分泌、代謝などを調節しています。 このリズムは、体内時計時計遺伝子によって制御され、環境の昼夜周期と同期します。

概日リズムの乱れは、睡眠障害、代謝異常、精神疾患などを引き起こす可能性があるため、遺伝子レベルでの研究が重要視されています。 特にクロノタイプ(朝型、夜型、中間型)は体内時計に関連する遺伝子のSNPが、特に強い関連性があることがわかってきました。

  • CC型: 朝型。
  • CG型: 中間型
  • GG型: 夜型

特に、PER3遺伝子をコードするSNPが睡眠パターンや日中の覚醒度と関連していることが示唆されています。 CC型は朝型ですが、変異によってCG型もしくはGG型になると夜型になる可能性が高まります。 昼間の過剰な眠気は、睡眠不足以外にも、遺伝子の影響を受けている可能性があるのです。

6. 記憶力:KIBRA遺伝子の働き

記憶力も、遺伝子によって影響を受ける可能性があります。 KIBRA遺伝子は、人間の記憶機能に深く関与する重要な遺伝子として知られています。

2006年、アメリカとスイスの共同研究チームによって発見されたこの遺伝子は、記憶機能を調節する役割を持つことが明らかになりました。 KIBRA遺伝子には、T型とC型の2つのタイプがあり、それぞれ記憶力に異なる影響を与えることが報告されています。

  • T型: 記憶力が高い傾向がある。
  • C型: 記憶力が低下する傾向がある。

特に、個人的な経験や出来事を思い出すエピソード記憶のパフォーマンスにおいて、T型の人は記憶力が高い傾向にある一方で、C型の人は記憶力が低下する傾向があることが示されています。 また、KIBRA遺伝子の変異は、空間能力や作業記憶も増強することが知られており、2023年の論文ではチェスプレーヤーや科学者の博士号保持者を対象に調査した結果、T型遺伝子の頻度が有意に高かったことが判明しています。 高齢者においても、T型を持つ高齢者はC型を持つ高齢者と比較して記憶力が優れていることが研究から明らかになっています。

7. 鎌状赤血球症:マラリアとの意外な関係

赤血球は、通常丸みがあり、少し窪んだ形をしていますが、アフリカの一部地域では、この形が鎌状に変化する鎌状赤血球症という病気があります。

鎌状赤血球症は、血液中の赤血球が異常な鎌形を取ることで、様々な健康問題を引き起こす遺伝性疾患です。

円盤状の正常な赤血球は柔軟性があり、体の細い血管まで酸素を届けることができます。一方、鎌状の赤血球は柔軟性がなく、血管内を移動する際に破裂しやすくなります。 正常な赤血球の寿命は90~120日であるのに対し、鎌状赤血球はわずか10~20日しかありません。そのため、新しい赤血球を生産しきれず、赤血球が不足した状態になります。

この病気の原因となるSNPは、HBB遺伝子の変異です。 通常Aである塩基配列がTに変わることで、ヘモグロビン分子の構造変化が起き、赤血球が硬く鎌形になります。

では、なぜアフリカ地域で鎌状赤血球症が多く見られるのでしょうか? 実は、マラリアが流行する地域と鎌状赤血球症のSNP変異の出現には深い関係があります。

マラリアは、ハマダラカという蚊が媒介するマラリア原虫が血液中の赤血球に侵入して増殖する病気です。 鎌状赤血球症の人は、マラリア原虫が赤血球に侵入するとすぐに溶血し、破壊されてしまうため、結果的にマラリア原虫の増殖を抑えることができるといわれています。 つまり、マラリア原虫にとって鎌状赤血球は好ましい環境ではないのです。

両親からTT型(鎌状赤血球症)を受け継いだ人は鎌状赤血球しか産生せず、マラリアに対する抵抗力がある一方で、鎌状赤血球症の症状に苦しむことになります。 一方、片親からしかT型を受け継いでいないAT型の人は、正常な赤血球と鎌状赤血球のハイブリッドを産生することができるため、AA型に比べマラリアに対する抵抗力を持っています。

マラリアが流行する特定の地域では、進化論的に有利なSNPとして淘汰されずに残っていると考えられています。

まとめ:遺伝子と私たちの個性

この記事では、7つのSNPの例を通して、遺伝子が私たちの個性や体質に与える影響をみてきました。 パクチーの好き嫌い、アスパラガスの尿の臭い、乳糖不耐症、お酒の強さ、朝型・夜型、記憶力、鎌状赤血球症。 これらの様々な特性は、遺伝子レベルでのわずかな違いによって生み出されているのです。

今回紹介したSNP以外にも、多くのSNPが私たちの体や心に影響を与えていると考えられます。 これらの研究は、病気の予防や治療、そしてより健康的な生活を送るためのヒントを与えてくれるでしょう。

もし、この記事で紹介した以外にも面白いSNPをご存知でしたら、ぜひコメント欄にご記入ください!