フェルミのパラドックス:宇宙人はどこにいる? 複数の説と謎深き宇宙の真実
- 2025-01-04
フェルミのパラドックス:宇宙人はどこにいる?
1950年代のある夏の日のこと、アメリカ・ロスアラモス国立研究所で、当時世界をリードする4人の科学者が集まりました。昼食を共にしながら、彼らは宇宙に存在するであろう地球外文明について議論していました。宇宙の広大さと誕生からの膨大な時間を考えれば、地球外文明が存在するのは当然だろうという意見が多数を占めていました。しかし、その会話を聞いていたエンリコ・フェルミは、今なお語り継がれるあの問いを発したのです。
「彼らは一体どこにいるのか?」
この問い、それが「フェルミのパラドックス」です。宇宙の広大さを考えれば、地球外文明が存在する確率は非常に高いはずです。しかし、なぜ私たちは未だに彼らとコンタクトを取れていないのでしょうか? このパラドックスを説明する様々な仮説が、科学者たちによって提唱されています。この記事では、その中でも特に注目すべき仮説を詳しく解説していきます。
1. 地球外文明探査の試みと現状
人類は宇宙に目を向けて以来、絶えず地球外文明を探し求めてきました。巨大なアンテナを用いて宇宙から飛んでくる電波を受信し分析する「地球外知的生命体探査プロジェクト(SETI)」は、1960年から現在まで継続的に運用されています。
さらに、宇宙に向けて地球からメッセージを送るという積極的な方法も取られてきました。例えば、1977年に打ち上げられた宇宙探査機ボイジャー1号と2号には、「ゴールデンレコード」と呼ばれるLPレコードが搭載されました。12インチの銅製ディスクに金メッキを施し、再生装置と共にアルミニウムの保護ケースに丁寧に収納されたゴールデンレコードには、55ヶ国語での挨拶や幼児からのメッセージが収録されています。
[ボイジャーのゴールデンレコードに収録されている言語の例(音声データから一部抜粋)]
Bo nam elga vosh volun ta ti ma bemus
Et pa kem perastra ferimus
안녕하세요 (Annyeonghaseyo)
Kai patjama tana pitapas mai tapas rima payas
runashimi pite
他にも、様々な文化の音楽や人間の姿を含む20枚のカラー写真といった、地球に関する多岐にわたる情報も収録されています。
1974年11月16日には、プエルトリコのアレシボ電波望遠鏡からマイクロ波のメッセージが発信されました。人類に関する様々な情報や太陽系の構成などを含むアレシボ・メッセージは、今も光速で宇宙空間を進んでいます。
しかし、このような努力にも関わらず、私たちは一度も公式に宇宙人を目撃したことがありません。巨大な望遠鏡を宇宙空間に打ち上げるまでに18,900光年もの距離にある星を発見できるほど天文学が発達したにも関わらず、全く進展がないのです。
2. フェルミのパラドックスを説明する仮説たち
科学者たちは、このフェルミのパラドックスについて、いくつかの興味深い理論を提示しています。
2.1. 闇の森仮説
恐ろしい猛獣が潜んでいる薄暗い森があると想像してみましょう。このような森で自分の存在を明らかにすることは、猛獣に獲物がいるとアピールする自殺行為と何ら変わりません。そのため、この闇の森ではどんな人も息を潜めて静かに隠れているしかないのです。
同様に、もしこの宇宙に恐ろしい地球外文明が潜んでいるなら、それを知る者は必死に自身の存在を隠すでしょう。そのため私たちは、身を潜めている地球外文明と接触することが可能な、というのです。これが「闇の森仮説」です。もしこの仮説が事実だとしたら、寒気がしますよね。
先ほどお話したように、私たち人類はゴールデンレコードとアレシボ・メッセージで人類の様々な情報や地球の位置を全宇宙に発信しました。もし宇宙が闇の森なら、この行為は私たち人類がくだした最悪の判断となるでしょう。
さらに恐ろしいのは、私たちを破壊しようとする地球外文明は、交渉さえ不可能な存在である可能性が高いことです。人類の歴史を振り返ってみても、ヨーロッパの開拓者に出会った先住民たちは、友好と信頼の証に輝く石や動物の皮、美味しい酒などを差し出しました。しかし、開拓者の立場からすればそのような贈り物は必要なく、もし必要なら先住民を殺して奪う方が手っ取り早かったため、悲劇的な結末を迎えるのが常でした。
言語はもちろん、種族さえも異なる異星人との遭遇は、これよりさらに大きな悲劇をもたらす可能性が大変高いでしょう。
2.2. グレートフィルター仮説
かつては海にたくさん生息していた三葉虫は、約2億5千万年前のペルム紀末の大量絶滅を生き延びられず、地球上から姿を消しました。その後、地球を支配していた恐竜もまた白亜紀後期第三紀境界の大量絶滅でほとんどの種類が姿を消しました。
しかし、この大規模な絶滅を乗り越えて生き残った生物たちもいました。科学者たちは、この一連の過程を浄水器のフィルターや濾過装置に例えました。つまり、すべての生物種は絶えずフィルターを通過しなければ生き残ることができず、いつか避けがたいグレートフィルターに出会い、絶滅するという「グレートフィルター仮説」が登場したのです。
この仮説には2通りのシナリオがあります。
1つ目は、グレートフィルターが過去既にあったというものです。私たち人類にとってのグレートフィルターが先述した大量絶滅だったのか、それとも奇跡のような人類の進化過程そのものなのかは誰にも分かりません。しかしそれが何であれ、私たちは生き残り、全宇宙を通して初めてグレートフィルターを通過した文明になったというのです。そのため、この宇宙に存在する文明の中で、私たちより高度なものはなく、私たちが宇宙人に会えないのはそれこそが理由だというものです。
2つ目は、人類にとってのグレートフィルターがまだ訪れていないという仮説です。核戦争、インセクトショック、超大型の火山噴火といったグレートフィルターが実は目前に迫っており、人類の歴史は20万年で終焉を迎えるという内容です。従って、人類は他の惑星との間を自由に往来できる技術を手に入れる前に消えてしまうのです。グレートフィルターは地球外文明にも同様に適用されるため、異星人たちもまた私たち人類のように20万年ほどしか存続できません。そして、観測可能な宇宙の年齢は実に100億年に達しますが、100億年における20万年は100年の生涯だとすればたった17時間程度に過ぎないのです。さらに、その20万年のほとんどの時間が原始時代であることを考えると、私たち人類の文明や存在するかもしれない他の星の文明は、宇宙の歴史においては一瞬に過ぎません。従って、宇宙を往来できるような2つの文明が同じ時代に存在することは事実上不可能に近いので異星人に出会えないというわけなのです。
2.3. レアアース仮説
グレートフィルター仮説が間違っていたとしても、私たち人類が誕生するまでに多くのフィルターが存在したことは否定できない事実です。視野をさらに広げると、この地球自体が多くのフィルターを通過してきたと見ることもできます。もし太陽系が私たちの銀河の中心部に位置していたら、太陽の400万倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールいて座A*に全てが吸い込まれていたでしょう。
逆に、恒星の生成や消滅が少ない銀河の外縁にあったとしたら、超新星爆発で生成されるウランのような重金属が不足して地熱を維持できず、生命は誕生しなかったでしょう。しかし太陽系はこれら全ての危険を避けた非常に安定した位置にあり、その中でも本当に奇跡的に私たちの地球はハビタブルゾーンにあります。
この他にも何百何千もの偶然が重なって誕生した地球は、科学者たちを「こんな惑星が宇宙のどこかにもう一つ存在するのだろうか?」という境地にいたらせ、レアアース仮説として確立されたのです。この仮説を支持する科学者たちの主張のように、生命体が繁栄するのに適した条件をなぜ地球が備えるようになったのかには、まだ多くの謎が残されています。
地球は小さな惑星としては異例に強い磁場を持っています。なぜ地球だけがサイズに比べて強力な磁場を持つようになったのかは分かりませんが、そのおかげで宇宙から飛んでくる様々な流星から防護されているのです。また月は衛星と呼ぶにはあまりにも大きく、太陽系の準惑星よりもさらに大きく重い衛星がなぜ私たちの地球を公転しているのかについては解明されていません。この大きな衛星は地球に強い潮の満ち引きを引き起こし、生命体の誕生や維持において非常に重要な役割を果たしています。
物理学者スティーブン・ウェッブは「みんなどこにいるんだろう」という本で、地球が奇跡である理由を提示し、これらの条件を全て満たす惑星についての可能性を計算したのち、人類は孤独だという結論に達しました。ウェッブはそれでも地球のような惑星が広い宇宙のどこかに存在するのではないかという主張に対して、そのような期待自体が傲慢さと謙虚さを同時に持つようなものではないかと、懐疑的な態度を示しています。
2.4. バーサーカー仮説
まるでSF映画にも登場しそうである仮説も存在します。極めて優れた頭脳を持ち、反神とさえ呼ばれたジョン・フォン・ノイマンは、人類史上最高の天才の1人に挙げられています。20世紀中頃、地球上の資源が枯渇しつつあることを懸念して、月や小惑星の資源を採掘する方法を探っていた科学者たちは、フォン・ノイマンの知恵を借ろうとしました。
フォン・ノイマンは、フォン・ノイマン・プローブという自己複製宇宙船を提案しました。近隣の小惑星に送られたフォン・ノイマン・プローブは、そこで採集した資源を使って自分の複製を作ることを繰り返し、他の惑星系へ移動しながら増え続けていくのです。多くの科学者がシミュレーションを行った結果、私たちが光速を超えられない以上、フォン・ノイマン・プローブこそが最も理想的な方法であると結論付けました。そしてその結論は、地球外文明についても適用できるとされます。
人類が巨大な宇宙で自己複製宇宙船を発見できないのは、少なくとも私たちの周辺宇宙には地球を訪問できるほどの技術を持った地球外文明が存在しないことを示唆しているというわけです。
一方、一部の科学者たちは、この仮説を発展させ、「バーサーカー仮説」という恐ろしい可能性を提起しました。もし高度に発展した地球外文明が資源採集ではなく破壊目的で自己複製宇宙船を作ったとしたら、今この瞬間も自己増殖型のマシンが増え続け、遭遇する全ての惑星や銀河を破壊しているというのです。破壊の目的は単純に違う星の種族に対する嫌悪から、自分たちが住みやすい環境に惑星を改造しようとするテラフォーミングまで様々 に推測されているほか、採集を目的とした宇宙船が誤作動を起こすという可能性も無いわけではありません。
バーサーカー仮説を支持する科学者たちは、私たちがこの攻撃的な自己複製宇宙船を目撃する瞬間が、すなわち人類文明終焉のカウントダウンが始まる時だと主張します。
3. 人類は宇宙における「早すぎる誕生」?
早いのか、遅いのか。2015年10月20日、NASAは衝撃的な研究結果を発表しました。46億年前に太陽系の一部として地球が形成された時、地球型惑星の92%はまだ生まれていなかったというのです。これはつまり、地球が上位8%の初期惑星であることを意味します。
宇宙が生命体にエネルギーを提供できる寿命は約1兆年と言われています。現在の宇宙年齢はたったの138億年で、宇宙を100歳の寿命を持つ人間に置き換えると、まだ15ヶ月の赤ちゃんに過ぎない非常に若い時期だとされています。NASAの発表を踏まえると、私たち人類はこの宇宙に存在する文明の中で、素早く現れた初期の文明である可能性が非常に高いのです。
この様な主張を基に、私たちがあまりにも早く生まれたために宇宙人を見ることができないのだという仮説が登場しました。
これとは正反対の仮説も存在します。過去のビッグバンによって生成された初期の宇宙は非常に高温でした。生成されてから38万年後、約2700度まで冷えた宇宙は、138億年が過ぎた現在、-270度に冷えています。そのため現在ではかつて水があった惑星も凍り付き、高温にも太陽のような恒星と適度な距離にある地球のような惑星だけがハビタブルゾーンに入ることができました。
しかし、宇宙がゆっくりと冷えていく過程で生命体に適した20度程度だった時期には、宇宙全域がハビタブルゾーンそのものでした。現在では凍りついた惑星に水が残っているということは、遠い昔には宇宙にいくつもの文明が存在していたかもしれないということです。この様な推測から、人類はあまりにも遅く誕生したという仮説が成り立つのです。この仮説では、かつては宇宙に散乱たる文明があったものの、数億年前に気候が寒冷化したため全文明が滅亡してしまい、今残っているのは私たち人類だけだという悲しい結論に達したのです。
2019年8月、アメリカ天文学会は天文学ジャーナルに、現在から約1千万年前に宇宙人が地球を訪れていたとしてもその痕跡を見つけることは不可能だという内容の論文を発表し、一部で指摘されていた「それならなぜ宇宙人の痕跡さえ見つからないのか」という反論も消えました。
この他にも、なぜ私たちは宇宙人に会えないのかという問いに対する仮説はいくつも存在します。宇宙は私たちの文明だけが存在するには広すぎる、そして文明同士が遭遇するには広すぎる。SF界三大巨匠の一人と称されるアメリカの作家アイザック・アシモフが述べたように、もしかすると異星文明があまりにも遠く離れているために互いに会えないのかもしれません。
例えば、2015年7月に発見されたケプラー452bは生命体が住むのに非常に適した環境だと推測されますが、地球から約1400光年も離れています。また2020年5月に発見されたケプラー1649cは地球と大きさや軌道がそっくりで、文明が存在する可能性が非常に高いものの、2万5000光年も離れた場所にあります。
現在、光より速い物質が発見されていないことを考えると、これらの惑星に文明が存在していても互いに会うためには数千、数万年もかかります。
「動物園仮説」というぞっとするような説も存在します。この宇宙には異次元の高度な文明が多数存在し、彼らが原始レベルの文明を持つ地球の保護のために地球を取り巻く広大な領域を一種の保護区に指定したという仮説です。この仮説を主張する人々は、時折聞かれるUFO目撃談について「私有地に入らないでください」の看板を無視する人々に例えたりもします。
果たして、フェルミの問いに答えることはできるのでしょうか? 彼らは一体どこにいるのか?宇宙には私たち以外にも文明が存在するのか、それとも私たちだけなのか?どちらにしても恐ろしい。
以上、奇妙な夜でした。